lute×TuneCore Japan×All Digital Music、ポスト・デジタル時代のミュージシャンへ贈るデジタル音楽ビジネスの最前線

2018/07/11 (水) - 12:00
「Workshop for Musicians〜ポスト・デジタル時代におけるミュージシャンのためのワークショップ〜」


lute株式会社 代表取締役/モデレーター:五十嵐弘彦
チューンコアジャパン株式会社 代表取締役社長:野田威一郎
All Digital Music編集長:ジェイ・コウガミ


6月20日、東京・渋谷 THINK OF THINGSにて「Workshop for Musicians〜ポスト・デジタル時代におけるミュージシャンのためのワークショップ〜」が開催された。

本ワークショップは、日本初のサブミッションメディア・lute musicを立ち上げた分散型動画メディア・lute/ルーテが、デジタル音楽ディストリビューションサービス・TuneCore Japanならびに、音楽テクノロジーとデジタル音楽情報を届けるメディア・All Digital Musicの協力のもと企画したワークショップ形式のイベント。

第1部では、五十嵐 弘彦氏(lute株式会社 代表取締役)がモデレーターを務め、野田威一郎氏(チューンコアジャパン株式会社 代表取締役社長)、ジェイ・コウガミ氏(All Digital Music 編集長)が登壇。

以下5つのトピックを設定し、最新のデジタル音楽ビジネスについてトークセッションが展開された。

トピック一覧
・サブミッションメディアの勃興は何を意味しているか
・音楽シーンのこれまで/これから
・変化する、レーベルとミュージシャンの関係
・ミュージシャンがみるべき「データ」と「解析」
・売上なのか、広告収益なのか?いま「ヒット」をどう定義すべきか

 

新しい音楽メディアのかたち


五十嵐:本日モデレーターを務めさせていただきます、lute代表の五十嵐です。今回のワークショップでは大きく分けて5つのトピックを用意しております。まずは「サブミッションメディアの勃興は何を意味しているか」というトピックより、野田さんから「サブミッションメディア」とは一体どういうものなのか、ご説明をお願いします。
 

「Workshop for Musicians〜ポスト・デジタル時代におけるミュージシャンのためのワークショップ〜」


野田:そもそも「サブミッションメディア」という言葉自体、聞き馴染みがないですよね。というのも日本国内ではその数自体が少ないため、まだまだ言葉として浸透していないんです。

みなさんも「何か新しいものが出てきたな」という雰囲気は感じていると思いますし、僕もこれからのメディアにおけるあたらしい形として注目しているのですが…これが登場したことによって、音楽業界の全てが変わるような話ではないということを事前にお伝えしておきます。

じゃあサブミッションメディアって一体何なんだって話ですが、ITのシステムがどうたらといった難しい話ではありません。

「インフルエンサー」「分散型メディア」って言葉を聞いたことがあるかと思うんですけど、これらに近い形で、その中でも音楽に特化したものです。単純にミュージシャンが作った曲をキュレートする仕組みを持っているメディアとなります。

例えば、サブミッションメディアであるlute musicに自分の曲を送ってそれがメディアに気に入られてピックアップされると、luteのラベルと共にYouTube、Instagram、Twitter、Facebookへと一気に拡散されます。

そうすると今度はどういうことが起きるのかというと、その曲がメディアの持っているプレイリストにもピックアップされてストリーミングの再生数が増えたり、楽曲のダウンロードが増えたりといった、起爆材みたいな役割を担っているわけです。

これの何が新しいって、文字情報でコンテンツを拡散させるメディアが多かったなかで、サブミッションメディアでは音楽を聴かせて、プレイリストなどへキュレーションして拡散させる手法を取っている所ですよね。

みなさんもYouTubeで作業用BGMといったのを聴いたことがあると思うんですけど、ああいった感じで誰かが自分の好きな曲を選んで、気に入ったらそこを聴き続けることができる。音楽を聴きながら新しい情報を得られる新しいメディアといったイメージですね。

五十嵐:海外ではどういったサブミッションメディアの事例がありますか?

野田:国内においては我々がluteさんとやっているようにまだまだ数が少ない状況ですが、海外だとTrap Nationといったマンモス級のものも出てきています。

ほかにもRap NationChill Nationとジャンル毎に分かれていて、そこに彼らが選んだ曲とロゴが載ってて音楽が聴けるチャンネルになっています。ここでは楽曲をフル尺で聴けるので、国内では少しハードルになっている部分かも知れないですね。

ちなみにTrap Nationの登録人数はおよそ2000万人で、YouTubeの中で世界45位くらいと、かなり大きな規模感を持ったチャンネルになっています。

またドイツとフランスでは、Majestic casualTheSoundYouNeedといった各国でサブミッションメディアをやっている人たちがいて、YouTubeチャンネルで楽曲がピックアップされると、彼らのプレイリストでもその楽曲がピックアップされて、コアな音楽ファンが聴いてくれる環境が出来上がっています。

五十嵐:僕もサブミッションメディアを立ち上げるにあたって調べれば調べる程、面白いなぁと感じています。普段からそういったチャンネルでなんとなく音楽を聴いていたな〜と。ジェイさんはどんな時に使っていますか?

ジェイ:僕の場合は新曲を探す時に使っています。今はどんな音が流行っているのか、このミュージシャンはどこで活動しているのか、いわゆるベンチマークのひとつですね。

普段はSpotifyやApple Musicのプレイリストを良く見ていますが、サブミッションメディアのチャンネルで掛かっている新曲を聴くことは、音楽ファンやメディア、ジャーナリストとチェックしている人が日々増えてきていると思います。

 

日本と世界における音楽シーンのギャップ


五十嵐:次のトピックでは話を少し拡げて「音楽シーンのこれまで、これからについて」です。僕自身も音楽の聴き方が変わってきていますし、世界的に見ても、音楽との出会い方というものが日々変化しているのを感じています。

世界の音楽リスナーに関して詳しいジェイさんからすると、音楽の聴き方というのはどういう風に変わってきているのでしょうか?
 

「Workshop for Musicians〜ポスト・デジタル時代におけるミュージシャンのためのワークショップ〜」


ジェイ:グローバルな視点で見ると、ストリーミングがナンバーワンの音楽プラットフォームと言われてもおかしくないです。

これは単純に聴かれている音楽消費量と、ビジネスが起きているという2つの領域で、ストリーミングサービス、サブスクリプションサービスが音楽シーンの中心的なものとして存在しています。

そこには音楽ファンやミュージシャン、レーベル、ディストリビューターといった人たちが集約していて、ストリーミングを中心にした音楽ビジネスのエコシステムが生まれ始めて、そこに入るために音楽シーン全体が急ピッチで移行している段階です。

その移行というのも、ただ配信するだけで良いわけじゃなくて、例えばストリーミング時の楽曲の権利関係や、出版の権利をどうするかといった部分を変えたりだとか、どうやって曲をプロモーションするのか、新人をブレイクさせるのかといった所にビジネスモデルをシフトしているのが、グローバルな音楽シーンの現状と言えますね。

五十嵐:ディストリビューションサービスを運営している観点から、野田さんはどう見られてますか?

野田:ジェイくんが言った通り、海外においては全くその通りだと思います。ただ国内に関しては、結構カオスな状況になっていますね(笑)。

日本ではまず、無料のYouTubeやアプリで聴いているという層が一定ボリュームいます。加えて最近では、Apple Music や Spotifyといったグローバルなストリーミングサービス、LINE MUSICなどの国内のストリーミングサービスでも音楽を聴いている人が増えてきているので、結構バラバラです。

無料で聴いている人もいれば、ストリーミングサービスで聴いている人もいる。今もダウンロードでの購入がメインの人もいれば、CDを買ってくれるファンもいる。みんなの聴き方がバラバラなので、恐らくミュージシャン側は「どうしたらいいの?」って思っているところだと思います。

ただ、全体論として、海外ではストリーミングがメインの聴き方になっているように、間違いなくそっちにシフトしていく流れはありますよね。

五十嵐:音源物から少し話を広げてお話したいと思います。もちろん音源物も大切ですが、ライブでの興行売上や、特に海外ではアーティスト自身のブランドを持っていたりするケースが増えています。こうした音楽業界のビジネスとして捉えた時のトレンドについてどう思いますか?

ジェイ:トレンドという見方もありますが、それはひとつの選択肢ですね。ブランドと音楽に寄り添っていくという流れは強まってきているので、そうしたブランドとレーベルやミュージシャンがコラボするという形は世界的には増えていますが、それはひとつの成功例に過ぎなくて、今はその実例がいっぱいある状況なんですよね。

五十嵐:必ずしも一個のロードマップがあるわけではなくて、ミュージシャンの特性に沿った形で展開しているものということですかね?

ジェイ:そうですね。海外の音楽業界はそういったビジネスがとても上手で、インディーズ・レーベルでもブランド力を高めて、大手企業やブランドと組む機会が着々と増えてきていますし、そのレーベルが持っている独自のコミュニティや、ミュージシャンのSNSを通してクライアントであるブランドに還元する価値提供は広まっていますね。

野田:それとブランドというかブランディングという意味で、「音源そのものの価値ってどうなの?」って再定義され始めている時期かなとも思いますね。

変な話、CDからデジタルに移行する時に「安くなりすぎじゃない?」って感じる人もいたと思うんですよ。でもそれって、バリューという意味で考えると音源自体の価値が上がったのか下がったのか、すごく判断が難しい所ですよね。

そのひとつの形で、ブランドとのコラボや興業に力を入れていくのは自然な流れだと感じています。こういった時代にミュージシャンが向き合う時に、自分の軸をどこに置いて何で勝負するかは、やっぱりミュージシャン自身のキャラクター次第ですよね。

逆にいうと、個々が自分の伸ばしところを突き詰めていかなくちゃいけない時代でもあるのかなとも思います。

 

チームとしてのミュージシャン×レーベル


五十嵐:次のトピックは「変化するレーベルとミュージシャンの関係」についてです。漠然な聞き方になってしまいますが、現在レーベルの中でミュージシャンはどんな動き方をしているのでしょうか?

ジェイ:世界でメジャー・レーベルと呼ばれるものはユニバーサル、ソニー、ワーナーの3社で、その3社と全てのインディーズ・レーベルという括りになっています。

日本のレーベルとミュージシャンの関係とは若干違ってくるんですけど、今はインディーズ・レーベルに勢いがあって、収益を上げているということが海外のメディアでも良く言われています。その反面、全然稼げていないレーベルというのもかなり増えていますね。

それは、海外のストリーミングが上昇し始めた2010年代前半はインディーズが強くて、2015年以降になるとメジャーの方が強くなっているといった流れも関係していると思います。

サブスクでヒット曲を出すのは、大抵はメジャー・レーベルと組んでるミュージシャンですが、それは必ずしもメジャーと専属契約しているわけじゃなくて、メジャーとディストリビューション契約だけをして制作は自主で行っているといった形式も増えてきています。

世界で活躍する新人がインディーズから生まれることは増えていますし、マネタイズの面で賢くなってきているところがありますので、ミュージシャンがレーベルに何を求めるのか、ミュージシャン自身が色々決められる時代になってきていますよね。

マネタイズをしたいのか、作品をリリースしたいのか、長いスパンでレーベルの中で活動したいのか、選択肢は用意されていて、逆にレーベル自体も提案できることが増えていると思います。

野田:メジャーとインディーズについて質問されることが多い中で、僕がいつも言っているのは、メジャーとインディーズの括りは役割の問題で、自分が表現したいものやクリエイティブを作れるためのチームの一環でしかないということです。

そこのパワーバランスが崩れたりすると、言われたことやってるからつまらないとか、やりたいことをやれないとか、それぞれの立場に応じてかなり違うものなんだと、色んな所から話を聞いていて実感しています。

それを解決する明確な答えは出ていなんですが、そういうところも含めて、チームとしてのレーベルという形は必要ですよね。

海外ではミュージシャンが主体となって、自身の活動全般に取り組んでいくケースが多い。ミュージシャンがプロジェクトの中心となって、うまいことチーム編成が共存できていれば、メジャーとかインディーズという括りはあまり関係ないんじゃないとも思うんですよ。

そこから大きくなっていったのがメジャーレーベルなだけであって、今はそれが分散化して大きな組織じゃなくても、自分たちの世界でクリエイティブを表現することができるからこそ、お金をちゃんと稼がなければいけない。

その部分はレーベルが出してくれるという考えも一概としてありますが、やってくれない人たちも増えていますよね。なので、これから徐々にデジタルの新しい分野をみんなで考えて使いながら、新しいマーケットの形を生んでいけば良いと思っています。

僕らはそのデジタルの部分でお手伝いできるところを担っていきたくて、ひとつのツールとして使い倒して欲しいって感じですね(笑)。

 

モチベーション維持へとつながるデータ解析


五十嵐:では次のトピック「ミュージシャンが見るべきデータと解析」に移っていきます。デジタルの台頭によって音楽におけるビジネスの方法や、戦略の立て方というのが、日々変わってきています。

そのデジタルがもたらしてくれたモノのひとつに、ユーザーがどう動いているか、どのタイミングで聴いてくれているかなどをデータとしてすぐに採れて、またそれを解析することができるようになったことがあげられるかと思います。

こうした流れのなかで、今、ミュージシャン自身はどれくらいのデータを取りにいけるものなんですかね?
 

「Workshop for Musicians〜ポスト・デジタル時代におけるミュージシャンのためのワークショップ〜」


野田:僕はデジタルのことしか話せないんですけど、去年くらいからSpotifyが日本でもミュージシャンに向けた分析ツール、Spotify for Artistsのようなものを提供し始めて、やっときたなって感じです。

我々としても、賢明なTuneCore Japanユーザーのみなさまは見てくれていると思うんですけど(笑)、各ストアの速報レポートを毎日データとして出しています。

まだデータ自体を出してくれないストアもあるんですけど、そこはみなさんに「はやく作れー」って言って頂いて(笑)。配信ストアからすると、なかなか時間かかる部分で難しいことも分かってはいるんですけど。

こういったデータ解析は、音楽業界全体として遅れている部分だと思います。ミュージシャンもどうにかしたいから、まずは自分の活動を分析しないといけないんだけど、その分析すらできない状態にある。なるべく早く、業界全体で改善しなくちゃいけないポイントですよね。

実際に、我々が提供している速報レポートのページって、TuneCore Japan利用者全体の60%くらいが見てくれています。一生懸命に作った音源をリリースしたら「売れているかな、聴かれているかな」ってやっぱり気になりますよね。そこが一番ワクワクしますし、何かアクションを起こしたら、その反応を見たいのは当然です。だから業界全体として、「見たいデータを見れるようにする」のは急務ですよね。

 

ヒットの可視化
 

「Workshop for Musicians〜ポスト・デジタル時代におけるミュージシャンのためのワークショップ〜」


五十嵐:最後のトピックになりますが、そういった解析データを見てみると、ヒットしているとニュアンスではわかるんですが、いまや「ヒット」という言葉の定義が曖昧になっている気がします。

CDがミリオン売れるというのもひとつのヒットですけど、そうじゃないヒットもあり得るわけですよね。

おふたりが仰っていたように、ミュージシャン自身のブランディングや、多種多様なビジネスモデルのなかで、ヒットという言葉には色んな意味があるんじゃないかなと思っているんですが、どうでしょうか?

ジェイ:例えばBandcampという海外のインディーズ・レーベルが使っている音楽ダウンロード販売サービスがあります。バルセロナで行われたSónarという音楽フェスティバルにたまたま行っていまして、そこにいたBandcampのレーベル担当者に同じような質問をしたんですよ。

いわゆる「ヒットの基準はなんですか?」「データは何を指標にして見ているんですか?」って聞いたら一言だけ、「売り上げに直結するかどうか」と。

これはファンの中からどうやって売り上げに直結させるのかを考えるためにデータ解析が必要だと。そして、それがヒットなのか、自分たちのマネタイズなのかっていうところも定義つけることも必要だと言っていました。

レーベルを運営する、もしくはミュージシャンとしてキャリアを積んで今の音楽シーンで世界と戦っていく中で考えなくちゃいけないことは、売り上げをどうやって作っていくのかということなので、それはひとつのヒットの定義といえると思います。
 


例えば、チャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」は、YouTubeで配信したことが注目されがちですが、ちゃんとiTunesストアで音源をダウンロード配信していたから賢いんです。この曲は世界各国のデータが出ているんですけど、iTunesストアで1位を獲っています。

彼はYouTubeなどで動画のプロモーションを行っていて、コピー動画とかも出てきている中で、iTunesで音源を売るという戦略を取っている。そういったマネタイズのポイントを作りながらもヒットを作るということが、現実的にも可能な時代になっていると思います。

野田:僕も売り上げは絶対目指さないとダメだと思います。「そこの数字を別に勘定に入れなくても良くない?」って話もあるかも知れないですけど、やったことに対しての対価を貰うだけなんで、全然儲けていただきたいです。

「ヒットの定義とは何か?」みたいな疑問もあるのは確かで、今はみんながどこを聴いてて、どこのチャートを見て良いかもわからないみたいな状況になっている。ただ、この定義や指標は改善されていくと思っています。

ある程度、消費者の動向が音楽業界全体として見えてくるようになれば、改めて指標となるチャートが出てくると思いますし、そこでの切磋琢磨や競争が生まれますよね。

そういうチャートがデジタルでも出てきた時に、そこにチャートインすることがヒットと呼べるものになるかも知れません。それは結局、売り上げに集約していくわけなんですけど、売り上げ以外にもそういった可視化みたいなこともこれからどんどん起きてくるはず。

オリコンも去年からシングル配信のランキングを始めて、これからストリーミングを入れていくって明言しているので、徐々にデジタルの音楽に対して、環境は整いつつある。少し歩みは遅いかもしれませんが、整えようとしている段階だなって思います。

ジェイ:lute musicではヒットをどういう風に考えて、サービスを運営されてるのか、何か指標になるものとかありますか?

五十嵐:lute musicの場合においては、ゴールは360度で考えています。なので再生回数は、ひとつの要素であるという考え方ですね。

先程の「This Is America」の話になりますけど、YouTubeで人に伝播した後にiTunesでファンが買っているのと同じように、lute musicというものを通して人に伝播し、それがMVを見るきっかけとなり、そして音源や別の物の売り上げに繋がっていく。

あるひとつのモノからあらゆる方向に拡散して、それが当たり前のように目の前にあるものになって欲しい。そんな思いでlute musicを作っています。