書籍『響く言葉』より“アイデアがすべて” 音楽プロデューサー・松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座 採録

2018年1月29日 12:00
松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座


コンサートプロモーターズ協会(ACPC)と東京工科大学メディア学部が提携して開講している寄附講座「ライブ・エンタテインメント論」。そのゲスト講師へのインタビューをもとにした書籍『響く言葉』が、昨年12月20日に発売された。

本書には、音楽プロデューサーで本学客員教授の松任谷正隆氏、元アニプレックス代表の夏目公一朗氏、芸能プロダクション・ホリプロ代表の堀義貴氏ら、音楽、アニメ、テレビ、ラジオ、芸能など各業界のトップランナー15人が登場。「今、伝えておきたい事」「業界が求める人材」「視野を広げるために何をすべきか?」など、業界を目指す学生をはじめ幅広い若者世代への示唆に富む一冊となっている。

2007年から行われている「ライブ・エンタテインメント論」だが、昨年12月12日に開講された本講義には松任谷正隆氏が登壇。松任谷氏にとって東京工科大学で11回目になる講義は、ライターの松木直也氏によるインタビュー形式で進行し、『響く言葉』から「アイデア」をテーマに、学生たちから質疑応答が行われた。

 

子どもの頃から好きだったのは“いたずら”

 


松木直也(以下 松木):12月20日に河出書房新社にて発行された『響く言葉』は、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)による、ライブ・エンタテインメント論にこれまで登壇してくださった、先生たちのインタビューをまとめたものです。

学生には事前に松任谷先生のパートを読んでもらい、その中で質問を受け付けました。私が代読して松任谷先生に質問する形で進行させていただきます。
 

松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座


最初の質問ですが、「現在松任谷さんが一番好きなことは何か教えていただきたいです。また、それは学生時代の好きなことと大きく違いはありますか?」です。

この方は、松任谷さんの『好きなことをやる』という本の中の言葉から「どうせできない」「自分には向いてない」と初めから諦めるのではなく、好きなのだからとりあえずやってみようと前向きに考えられるようになったそうです。

松任谷正隆(以下 松任谷):子どもの頃から好きだったのは“いたずら”です。例えば「友達の電話番号教えて」って言われるでしょう? そこでわざと全然違う人の電話番号を教えたり、名前は親父の名前を教えたりして、そうすると親父さんが出てくるわけ(笑)。

たぶん自分は3度の飯よりいたずらが好き(笑)。でも、それを要約すると「サプライズ」ですよ。そういういたずら心は今も変わっていないかな。

松木:次の質問は、「新しいイベントなどを考えるときに、どのような点に気を使っていますか?」です。この方は松任谷さんが学生時代にテストの期間も音楽活動をしていたことで、そのときは「無駄」と思われることでも、自分の将来の仕事に繋がることもあるのかもしれないと感じたそうです。

松任谷:「無駄がない」って思うのは、あとから考えれば誰だってそういう風に整理ができるだけで、そのときは分かりませんでした。

僕は66歳になりますが、今でも変わらずに大切にしているのは、今やっていることに飽きること。飽きるということは、「何か違うもの」「何か新しいもの」を欲しているんです。その飽きっぽいところがどういうところなのか、見つけるのがすごく大事で、僕はそこにクリエイティブがあると思っています。

松木:いたずらのサプライズも飽きることもクリエイティブに結びついているのですね。

続いての質問です。「これまで一番大きな壁にぶつかったと感じたのはどんなときでしたか? また、どうやって乗り越えましたか?」です。

この方は「本のなかで松任谷さんの発言で『学生は怖いものだらけ』というところがあり、それを理解していただき、嬉しく、心強くも思いました」と書いてありました。やっぱり学生から社会人になるというのは不安でしたか?

松任谷:もの凄く不安でした。「学校を卒業したら社会に出てかなきゃいけない」、これが僕の一番大きな壁だったと思います。

僕は大学のときにスタジオミュージシャンの仕事を始め、3年のときに就職活動しようとしたら、すでに友人たちは終えていて、そこから就職活動しても駄目だったし、その頃、音楽で食っていけるなんて思っていませんでした。

でも、知らないうちに音楽の作り方が変わっていき、僕はラッキーなことに、その違う時代の中に入っていったって感じです。

 

やり続けていくと我は出てくるもの

 


松木:次の質問ですが、「松任谷先生のおっしゃったことで特に凄いと思ったのは『自分の好きなことをやるだけではなく、やりたくないことは絶対やらない』というところです。そこで例えばプロジェクトなどで自分と感性が合わなくて降りるとき、他人からの評価や評判は怖くなかったのでしょうか?」です。

松任谷:怖いです。怖いに決まっています(笑)。

松木:自分の好きなことのみを実行するのはとても難しく、普通の人はなかなかできないと私は考えます。そこで松任谷さんは自分の好きなことに対し、どのように努力を続けたのでしょうか?

松任谷:本当に細かいことなんですが、ラーメンで例えると「ラーメンはこのくらいの温度で食べてもらいたい」と思っているとします。うーん、60度くらいかな。ところが、オーダーした人が「スープを沸騰させてくれ」と言う。すると僕は「そんな温度にしたら味がわからなくなる」「麺の表面が溶ける」と思って、「それはできない」と断るわけです。

松木:そのオーダーした人は「100度にしたらおいしい」って思っているわけですよね。

松任谷:もちろん「僕はこっちの方が美味しいと思います」ってマイルドに言いますが、それでも「作って欲しい」と言われたら「ごめんなさい。悪いけど僕はできません」と。

松木:例えば、あるアーティストから「編曲をお願いします」という依頼があると、松任谷さんはその場でパッとアイデアが浮かぶんですか?

松任谷:アイデアというか骨格が一番最初に浮かんだりしますね。またラーメンの話に例えると、自分で本当においしいと思って「絶対これだよ」って思ったときにクライアントが「もっとこうして」となったら、そこまでいろいろやっているから、自分ではわかるわけですよ。それをやったら不味くなる、これの価値がなくなると。

そうしたらやっぱりやめるでしょう? 僕に頼んだということは、僕が本当に美味しいものを作るっていう責任を負うわけだから、それを壊すのだったら「ちょっと、もうわかりません」って感じです。

もちろん学生のときには、そこまで我はなかったと思います。でもやり続けていくと我は出てくるもの。何でもそうですよ。で、その我をどうするかというと、僕は妥協することができない。

松木:それは経験ですか?

松任谷:いや、自分の性格だと思います。いろんな性格の人がいて「それでも友だちが大事」っていう人と「いや、絶対おいしいものが一番」と思う人がいるんじゃないかな。

松木:自分を信じる力も大切になってくるのでしょうね?

松任谷:それはあるかもしれません。でもそれも性格ですよ。誰しもが子供の頃から持っていると思います。

 

自分が「おいしい」と思ったアイデアなら受け入れられる可能性は必ずある

 


松木:続いて本日の講義のテーマである「アイデア」について、その考え方などを学生と一緒に考えていきたいと思います。事前に松任谷先生にはこんな質問が寄せられています。

「アイデアを出す訓練について『“何故”という質問を持つことでアイデアが浮かんでくる』と松任谷先生はおっしゃっていましたが、そのアイデアの質を高める工夫について教えて欲しい」
 

松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座


まず、松任谷先生が東京工科大学で講義したことがきっかけとなって、メディア学部の学生が毎年、ユーミンの「SURF&SNOW in Naeba」(苗場プリンスホテルのコンサート。今年は2月2日からスタートで「Vol.38」となる)で「YMODE」という「NET MAGAZINE IN NAEBA」の制作スタッフとして参加しております。それでは、今年参加する学生たちに壇上で直接、松任谷先生に質問をしてもらいます。
 

松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座


学生:過去にやった企画で悔いが残るものがあれば教えてください。

松任谷:基本的に悔いがあるものはないです。なぜなら学生たちからのプレゼンがあり、ミーティングして「こうやったらもっと面白いね」とか「これはできない」「つまんない」とかそういう話をする場があるから、やってしまって悔いが残るものはないですね。ただ「もっと面白くできたかも」というものはいくつかあるかな…。

松木:では次の質問にいきましょう。

学生:今まで「YMODE」では、学生の突飛なアイデアが結構出てきていると思いますが、アイデアの採用・不採用の基準みたいなものがありましたら教えてください。

松任谷:基準は難しいよね。でも、最初に話したように僕の基本は“いたずら”。いたずらの感覚って、学生の頃に一番持っていたような気がします。そういう面ではいたずら心が企画になっているような人のプレゼンが一番楽しいし、「これ普通やらないでしょ」とか「こんなものが見たい」というのはいつでも欲しいです。

松木:学生のみなさん、どうぞいたずらしてください(笑)。では次の質問お願いします。

学生:アイデアを出すときに、音楽の芸術的な面と、ビジネスという面の2つの葛藤があるのですが、その折り合いをつけることってありますか?

松任谷:僕も20代の頃に売れるものをつくると「それは商業主義だな」みたいな、果てしない、何が正解だかわからないミーティングを何度もしていたことがあります。これは実を言うと、だんだん意味をなさなくなってくるディスカッションなんです。

なぜかというと、商業主義というものが、ずっと変わらないものであるのなら、ディスカッションすべき話題かもしれない。でも、いつも求められているものは変わっていくものなんです。

さっきも話したと思うけど、僕たちは飽きて次の、もうちょっと違う音楽が聴きたくなり、そのためにアイデアを出していくことをやっている。だから「商業主義って何?」ということを考えて、商業主義みたいなものをやろうとしてもできるわけがない、というのが僕の答えかな。

学生:「YMODE」のコンテンツを企画する段階で、学生同士で会議をしていて、面白いと思っていても、果たしてそれがみんなに受け入れられるか? とか、その面白いが主観であっていいのか? と悩むんですが?

松任谷:そこはある程度の塩梅が必要だと思う。だから「こんな変なもの」と自分で思っていたらきっと受け入れられないだろうし、自分が「おいしい」と思ったものだったら受け入れられる可能性は必ずあると思うよ。

 

アイデアって自分一人で考えられるわけない

 


学生:例えば、今までの積み重ねで絶対にウケるものもある中で、そのテーマをあえて外して、新しいアイデアを出していくことに対して私は怖さがあるのですが、そういった気持ちを克服する方法はありますか?
 

松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座


松任谷:「YMODE」に参加してもらう学生は、基本的にライブ映像を撮ってもらうことがメインになるけど、「ライブを撮るにあたって、こういうカットで、こういうアングルで、音楽的にはこういう風に繋いだらどういう感じがする?」とか、「映像的に飽きないように尺と音楽とをどうマッチングさせていくか? 」と考えるのが定番な考え方ですよね。

ですからその定番に対して「でも、それじゃ面白くないな」って思ったときに、アイデアが出てくるんじゃないかな。何かそういうものが、僕はアイデアだと思う。

学生:昨年や今年のメイキング映像を見て、松任谷先生はよくライブの演出を映画と繋げて考えているように感じたのですが、映画からヒントを得てライブの演出を決めることって多いですか?

松任谷:自分の観た映画の経験から、ある1シーンからショーを考えることもあります。例えば、映画『離愁』のラストシーンからイメージを得て、「あんな感じ」がやりたいと脚本を書きはじめたり、そういう風に映画と“何か”っていうのはあります。

松木:「あんな感じ」でイメージを広げていくのですね。

学生:松任谷さんのおススメの映画とかってありますか?

松任谷:自分の本にも何度か書いたけど、渋谷の映画館で『男と女』という映画をやっていて、中学の期末試験が終わったあとにみんなで観に行きました。その時は全然大したことないと思ったけど、でも心に何か引っかかって…大人になってから、再放送で観て「これ好きかもしれない」って思った。そういう自分の中でエバーグリーンな映画はいくつもあります。

学生:松任谷先生はどんなときにアイデアを考えているのですか?

松任谷:アイデアで一番大事なことを話すと、「アイデアは自分一人で考えられるわけがない」というのが答えかな。ゼロからものを考えている人は少ないと思うし、オリジナルの何かを自分の理解から「あんな感じのもの」をやろうとすると、「あれ、違うものができちゃった」って、みんなそういう風にやってきたと思います。音楽を作るときとか全部ね。

松木:ということは、学生たちにとって「あんな感じ」っていう引き出しを今からいっぱい作っておいた方がいいということでしょうか?

松任谷:それは皆さんが何かのときにインプットされて絶対に持っていると思う。そしてその「あんな感じ」のフォルダはいずれ開くから大丈夫です。「フォルダの使い方がわかりません」って言っている人は多いかもしれませんが自動的に開くんじゃないかな。

 

失敗したら、失敗したでいい。まずやってみること。

 


松木:では、会場の皆さんからも質問がありますので紹介いたします。

「松任谷先生は『学生たちの無知が強さになる』とおっしゃっていましたが、唐突に出たアイデアでもたくさん出していくのが正しいのでしょうか?」ということですが、いかがでしょうか。
 

松任谷正隆氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座


松任谷:いいと思います。それで失敗したら、失敗したでいい。由実さんのコンサートで、僕が一番最初に演出したアイデアは、僕と当時の僕のマネージャーが、コンサートをやっている途中に、汚い格好で一升瓶を持ってステージに出て行って、演奏が何故かピタリと止んで「おい、やめろ!」と言うものでした。

出ていった瞬間に「しまった!」と思ったのは、お客さんの中に正義感のある人がいて、引きずり落とされたらどうしようということで、これはアイデアとしても失敗でしたが、でもやってみると少なくとも「こういうことはやっちゃいけないんだな」ということは言えるようになるよね。

松木:それでは時間となりました。では松任谷先生、最後に学生たちにメッセージをお願いします。

松任谷:僕たちは楽しいアイデアをどうやって遊ぶかだと思っていますので、今度の苗場でも「みんな遊びましょう」。

松木:本日はありがとうございました。

書籍情報
『響く言葉』発売中
編者:東京工科大学(学校法人片柳学園)
発行:茉莉花社
発売元:河出書房新社
判型:四六判型 280ページ
価格:1,500円+税