【14th TIMM】欧米のライブエンタテイメント市場におけるチケット転売問題と日本の現状

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2017/11/29 (水) - 19:03
【14th TIMM】欧米のライブエンタテイメント市場におけるチケット転売問題と日本の現状
▲写真左より 野村達矢氏、アラン・デイ氏、アダム・ウェッブ氏

 

第14回 東京国際ミュージック・マーケット(14th TIMM)ビジネスセミナー

 

日本国内で社会問題化しているチケットの高額転売問題について、ライブ・エンタテインメント先進国である米英の関係者が、各国での状況やそれに対する取り組みについて語った。

 

<モデレーター>
石川篤 氏(コンサートプロモーターズ協会 総務委員・転売対策担当 / ディスクガレージ 取締役)
<スピーカー>
野村達矢 氏(一般社団法人日本音楽制作者連盟常務理事、株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション常務取締役執行役員)
アラン・デイ 氏(キリマンジャロ・ライヴ・英国コンサートプロモーター)
アダム・ウェッブ 氏(ファンフェア・アライアンス・キャンペーンマネージャー、AL1 コミュニケーションズ・創業者)

 


日本におけるチケット高額転売の状況と対策

 

石川:まず、日本におけるチケット高額転売の状況・対策をお話していきたいと思います。某プレイガイドさんからご提供いただいた、あるコンサートに対する申し込みの実態です。

 

ここにあるメールアドレスですが、アルファベットの並びはほぼ全部一緒で、ピリオドの位置が若干違うというものが、1,300件近く並んでいます。つまり、会員登録としては1,300人分の会員ID、これを1人の人物が保有していて、そのIDを使い機械的に予約を差し込むことによって、短期間に大量の予約・エントリーをし、1つのコンサートに対して1,280件の予約を差し込んでいるという状況です。

 

例のコンサートはキャパシティが大体3,000位のコンサートですから、その半分近くのチケットをその人が手にしていた可能性もあるということで、個人によるチケットの独占・寡占が行われるという状況が発生します。これだけの独占・寡占をやってしまうと、人工的に値段を吊り上げることがいとも簡単にできてしまいます。

 

このような事態に対して、我々ももう黙っていられないと行動を起こしたわけですが、その気持ちに火が付いたのは2015年、某チケット転売サイトがテレビコマーシャルを大々的に展開したことでした。

 

そこで我々は2016年8月に、朝日、読売、日経各紙に全15段広告を打ちまして、賛同アーティストのお名前も紙面に載せる形で「高額転売に反対します」というメッセージを世の中に訴えかけました。続いて2017年6月1日に「チケトレ」という安全・安心・低価格・定額でというチケットトレードサイトを作らせていただきました。

 

こういった取り組みの結果、警察や裁判官の方々もこのキャンペーンに賛同いただけたと思います。6月に逮捕された案件では非常に良い判決が出ました。

 

サカナクションのコンサートで電子チケットを転売した方がいて、今までは紙のチケットをインターネット上ではなく、一般の場所、例えばコンビニや路上など、そういう公共の場所でしか逮捕ができなかったところ、電子チケットを使ったダフ屋行為、高額の転売行為の犯人を逮捕し、さらに9月の末、神戸の地裁で詐欺罪が適用され、懲役2年6カ月という非常に重たい判決が出ました。

 

これは我々音楽業界にとって非常に画期的なことで、いわゆるネットダフ屋に対して司法の手、法律の手は届かないものと半ば諦めていた中でのこの判決は、私どもにとっても朗報でした。そして、これ以降も警察当局の捜査の熱量が上がり、検挙・逮捕に向けて活動していただいているという状況です。

 

野村:私の方からも補足させていただきます。チケット転売の問題に関して、日本の音楽業界では3つの側面で取り組み始めています。1つ目が啓蒙活動、某チケット転売サイトのようなトレードサイトがあたかも公式のチケットトレードサイトのように思われてしまっています。

 

そこで、「これは我々が認めている公式のチケットトレードサイトではないですよ」と広く知ってもらう必要があります。そもそもチケットの券面額より高い値段で取引がされているということ自体に、音楽業界全体、アーティストたちも反対しているという声明をきちんと出すことで、ユーザーのみなさんにそれを認知してもらうことが非常に大切です。

 

2つ目はチケットを公式トレードできるプラットフォームです。チケット転売を反対するだけじゃなくて、ユーザーの立場に立ってより便利な仕組みを作るということで「チケトレ」というサービスを運用開始しまして、徐々に利用も進んでいます。今は発券後のチケットだけのトレードなんですが、原券発券前に関してもサービスの対象にしようと現在取り組んでいます。

 

そして、3つ目の取り組みが立法化です。チケットの転売に関して、明確に規制できる法律は現状日本にはないとされていて、例えば都道府県の迷惑防止条例で、公共の場でチケットを売買するダフ屋行為を取り締まる対象にはなっているんですが、ネット上のチケットの取引に関して取り締まることまでは適用されません。そこで、ACPCを中心にライブ・エンタテインメント議員連盟に対して、立法化に向けた働きかけをしています。

 

 


アメリカとイギリスのチケットを巡る現状

 

 
【14th TIMM】欧米のライブエンタテイメント市場におけるチケット転売問題と日本の現状
▲石川篤氏(コンサートプロモーターズ協会 総務委員・転売対策担当 / ディスクガレージ 取締役)

 

石川:では次にアメリカの現状についてご紹介したいと思います。アメリカでは法規制が進んでおりまして、オバマさんが大統領在任中であった昨年末12月に「ベター・オンライン・チケット・セールス・アクト」、世にいうBOT禁止法と呼ばれている法律が成立しました。これはインターネット上で、機械などで短時間に予約してしまうような行為を禁止する、かなりターゲットを絞りこんだ法案です。

 

これは連邦政府が出したアメリカ全体に対する大統領令ということになっています。アメリカは連邦国家ですので、州ごとに法律を制定することが認められていますが、全面的に転売を禁止している州もあれば、スポーツの一部とか、学生のやっているアメフトはダメとか、一部の演目に関して禁止のような州もありますし、「転売OK」と明確に謳っている州もあります。このようにアメリカでは州ごとにまちまちな規制が行われています。

 

例えば、ロードアイランド州では10%の上乗せはダメ。ニューヨーク州の場合はキャパシティ6,000席上下で規制が変わってきます。6,000席よりも大きい会場、これは額面金額に上乗せできるのは45%まで。6,000席よりも小さい会場、これは上乗せできるのは20%までとなっています。

 

アメリカの場合は会場がプロモーターを兼ねたビジネススキームを取っていることが多いので、必然的に会場が、プライスの最大限度を決めることもできるというのが別条項で決まっているがニューヨーク州だそうです。

 

アラン:イギリスは2008年に政府が委員会を立ち上げ、オンラインのチケット再販の現状と、経済的にどれほど大きな影響を与えているかを把握しました。そして、イギリスの大手チケット会社が政府に対してロビー活動を行い、再販は犯罪行為だと認めてもらおうとしました。

 

また、2012年にviagogo(チケット売買サイト)でチケットの再販売がどのようにされているのか、どのような事業をしているのかという内容のテレビドキュメントが放送され、大変なスキャンダルを巻き起こしました。

 

そういった動きを踏まえて消費者保護法がイギリスにでき、もしチケットを再販したいのであれば、購入者に対して詳細な情報を伝えなければいけないことになりました。ただ、残念なことに法律はまだ完璧に施行されていません。

 

前向きな発展として「Twickets」というサイトのローンチがあります。ここでチケットを取引することができますし、See Ticketsといった、ほかの大手のチケット会社も額面での再販の制度を導入しています。そういった前向きな動きにのってファンフェアな市場を作っていきたいと考えています。

 

プロモーター、マネージャー、アーティストがチケットの再販売を管理できるようにしていきたいですし、消費者にとってもより良いものにしていきたいと思っています。

 

【14th TIMM】欧米のライブエンタテイメント市場におけるチケット転売問題と日本の現状
 

 

石川:イギリスでも取り組みがだいぶ進んでいらっしゃるようですが、法律の部分に関してもう少しお聞きしたいと思います。先ほどもご紹介があった消費者保護法では、二次流通業者の義務をいくつも決めてらっしゃるということだったんですが、具体的に二次流通業者はどんなことをしなくてはいけないんでしょうか?

 

アラン:2008年に導入された消費者保護のための法律が二次市場に対して、チケットを再販するときに、もちろん再販すること自体はイギリスでは違法ではないんですが、少なくとも消費者に対して、このチケットが本当に存在するもので、実際の価格、チケットの席番号、どういった制限があるかということをすべて伝えて保証しなければいけないです。

 

ただ、政府からの依頼で経済学者たちがチケット市場の調査を行ったんですが、この法律が十分に施行されていないという報告がされました。やはり、法律があったとしても、それに対してきちんとしたアクションをとっていかなければいけないんです。まずこの二次市場としては額面がきちんと情報として提供されていない、席番が示されていないということはよく起こっていますので、そういったことに対応していかなくてはいけません。

 

アダム:私たちのファンフェア・アライアンス・キャンペーンは、一気に全部やろうとするのは無理なので、とりあえず一歩一歩という形でやっております。

 

キャンペーンを開始してから18カ月ぐらい経ったんですが、政府の方からもリソースを出してもらっていますし、また取引のスタンダードも徐々に法制化されております。結果としてこれらが次のアクションにつながることを期待しています。ただ、二次販売サイトに対する規制はあるんですが、転売に関してはまたいろんな規制を作らなければいけません。

 

また、次の段階としてはデジタルチケットなど不正を止めるための技術が活用できるかもしれません。そもそもviagogoなどの再販サイトにチケットが出品されること自体避けたいわけですからね。

 

viagogoでチケットは水とか車といった一般商材と同じ扱いです。一般商材というのは再販できますから、「チケットも同じだ」というのが彼らの意見です。政府に対してもこれが彼らの言い分で「チケットも一般商材だ」と。ただ私たちは「チケットはイベントに来るためのライセンスみたいなもので、車とかそういったものとは違う」と言っているわけです。

 

また、イギリスで「チケット」と検索したときにviagogoが最初に出てきます。そうなることによって消費者は「これは正規の方法だ」と思ってしまうかもしれません。そして、viagogoでチケットを買った消費者が「高かった」と言う。私たちは「それは正規の値段じゃない。チケットは正式なルートで買うんだ」と何度も言うんですが、消費者の中ではviagogoとかが正規の販売ルートだと思っている人もいます。

 

そうした人の心理を利用して、正規のルートだといかにも思わせるような方法で販売しているサイトもありますので、私たちはそういったやり方と戦っています。

 

あともう1つ再販事情で非常に問題なのは、viagogoもそうですが、どのサイトも音楽業界とはまったく関係のない、単にプラットフォームを提供しているだけの会社で、音楽業界への還元はまったくないことです。

 

石川:お客さんがあたかも公式なチケットリセールの場所だと勘違いをしがちである、というのは日本と似ていますね。先ほど、この消費者保護法は第一歩とおっしゃいましたけれども、今後はどういったところを発展させていきたいとお考えでしょうか? また技術などの活用についてですが、具体的にどのような技術が検討されているんでしょうか?

 

アダム:正直に言いますと、まずはこの法律の施行をどんどん進めるのが一番だと思います。消費者保護法はもちろん消費者を保護するためにあるわけですが、施行しなければ保護はされませんから。

 

また、技術活用についてですが、注目されているのは顔認証とブロックチェーンですね。こういった技術を使うのはまだ時期尚早かもしれませんが、録音された音楽が10年ぐらい前にいろいろ大きく変わったように、チケットも大きな変革を遂げるべきだと考えています。

 

石川:日本も顔認証は一部で導入されていますが、イギリスと同じようにまだまだ入り口の状況です。この辺の課題も非常に似ていますね。

 

 

高額転売への意識とダイナミックプライシングの導入

 

 

石川:ここで場内の方からもご質問を受けたいと思います。

 

質問者1:日本のチケット転売の規制においては、ファン・消費者は比較的高額転売が道徳的・倫理的に問題があると受け止めて、主催者の側に好意的な見解を示している事実がありますが、イギリスではどうなのでしょうか? また、チケットを売る側もダイナミックプライシングの導入など検討されていないのでしょうか?

 

アラン:イギリスでもチケットの高額転売は問題だという声の方が大きいです。また、ダイナミックプライシングですが、コンサートでこの考え方は結構難しいんです。もちろん導入しているコンサートもあって、例えば、ロンドンのハイドパークでは色々なセクションに分かれていて、300ポンドだと前の方、安いのは後ろとなっていたりします。ただ個人的にはそれはあるべき姿とは思いません。ホテルや航空チケット等は分かるのですが、音楽は芸術ですから、何かそれとは違うやり方があってしかるべきかと思います。

 

また、ダイナミックプライシングのようなプッシュがアーティストじゃなくチケット会社が行う場合、その判断は券売状況によるべきであり、チケット会社はサービス運用会社ですから、そういった意思決定はするべきではないと思っています。

 

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質問者2:ダイナミックプライス的な考え方は日本で成立するんでしょうか? 

 

野村:思い返してみると、おそらく70年代くらいまではS席A席B席というようなチケットの券種は音楽コンサートでもあったはずです。ただ、「たった1列違うだけで数千円違う。その違いはなんなのか?」みたいな議論が起こり、80年代以降、最前列も最後列も同じ価格みたいに変わりました。

 

スタンディングコンサートになれば余計その区切りみたいなものがあいまいになってきて、特にここ数年フェスが盛んになっていますから、場所が違うことによってチケットの価格に差をつけるということ自体馴染まないと言いますか、なんとなく後ろ向きな形で一律というのが定着したという状況です。

 

手前味噌で申し訳ないですが、今回サカナクションが幕張メッセと大阪城ホールでアリーナライブをやったときに、チケットの券種をプレミアムとスペシャルとスタンダードという3つに分けました。

 

プレミアムは通常価格より4,000円ぐらい上げまして、グッズの優先販売と別のゲートを使って入場できること、オリジナルのライブパスを渡すという特典を付けました。もちろんエリアもステージのすぐ近くで一番聴きやすく観やすい場所に設定しました。

 

もう1つのスペシャルは、それに準ずる形でほぼ真ん中に近いエリアだったり、最前列を含むエリアでそれが2,000円アップくらい。そして、スタンダードが6,500円の通常の価格でやりましたが、お客さんの混乱もなく、むしろ高く設定したチケットから売れていったこともあり「好評だった」という認識はあります。

 

ですから今後、チケットの値段に関しても販売段階から価格差を付けるということはアリなんじゃないかな? と思いました。

 

アダム:イギリスでも同じようなことを様々なライブでやっています。例えば400枚のチケットを50ポンドで売るとか、もっと売るためにはどれぐらいの価格設定がいいのか見て、エリアによってはここの部分は販売しないと初めの段階で取っておき、販売が好調なようであれば価格を調整して販売するということをやっています。ダイナミックプライシングというほどのやり方ではないんですが。

 

ただ、これはスタンディングのライブだと難しいです。熱心なファンほど前に行きたいと思いますし、一番お金を持っているリッチな人が前に行くべきというわけではないんです。

 

もう1つ追加するなら、ダイナミックプライシングは価格が上がるわけではなくて下がる場合もあるということです。そこからダイナミックプライシングに反対している人が多いんだと思います。チケット価格が通常より下がってしまうのはあまり見たくありませんから。

 

もちろん、安くなったほうがいい人たちもいるかもしれませんし、そういったことをオーディエンスにどのように伝えていくのか、それがどのように受け入れられるのか、人によっては価格が安くなってしまうことに対しては違った反応があるかと思います。

 

石川:我々にとっては新しい販売方法のご紹介がありました。一部の席、特に一番売れるであろう前の席の方のエリアだけ販売をし、それを一次販売として、その売れ状況を見て二次販売でその後ろの席を順次売っていくと。値段を調節しながら売っていくというようなことがイギリスでは行われているようです。

 

もう1つ、ダイナミックプライシング。つまりオークション形式のような価格が変動するチケットプライスに関しては、これは場合によっては我々が望んでいる、いわゆる定価と思っている部分よりも下がってしまう可能性もあると。チケット価格はある意味人気のバロメーターととられかねないので、当然コンテンツホルダー側としても嫌気の差すケースもあるんじゃないか? というご指摘ですね。

 

質問者3:先ほどお話に出た「Twickets」のことを伺いたいんですが、日本でも同じように業界がリードをする形で「チケトレ」というサービスを始めました。熱心な音楽ファンには利用されていますが、まだ多くの人が既存のアンオフィシャルなサービスを使っているのが現状です。「Twickets」はUKの音楽マーケットから支持されているんでしょうか? 

 

アラン:支持されています。何故かというとチケットを販売するときに、例えば、価格を10%高く設定するんですけれども、その10%でクレジットカード手数料や送料を賄うことになるんです。またファンとして、チケットを転売できるサイトはいくつかあるんですが、そういったところは上限5%までと決まっているところもあります。

 

また「Twickets」は私どもがサポートしているサイトでもありますし、もし販売するのであったら本当にファンの人に適切な価格で転売できるようになっています。そういったことからもファンにも業界にも受け入れられています。

 

転売市場には2つあると思います。年間10億ポンド規模になっているのは人工的に作られた転売市場であり、実際にファンの間で転売したいという市場はそれよりもずっと小さいものです。例えば、実際にライブのある1週間、2週間前に「Twickets」を見てチケットを販売している人がいないかどうかを確認するような使われ方をしています。一方で大量に転売が行われているサイトでは、チケットが販売された直後に転売が始まりますよね。で、市場がこういった「Twickets」の方向に動いていくのはよいかと思います。

 

一次販売を行っているところがあって、二次販売を行うのであればどのように販売してくか、もちろん一次販売でウェイティングリストに載っている人たちがこの転売によってチケットを手に入れることもできると思いますし、こういった「Twickets」を使っていただくことによって消費者にとってより正統な、正しい形でチケットを手に入れることもできますし、そこから過剰に利益を得ることも防止できます。

 

石川:アーティストサイドが作った「Twickets」は、前向きな施策としてイギリスの消費者に支持されているということですね。それでは以上でカンファレンスの方を終わらせていただきたいと思います。みなさんご清聴ありがとうございました。

 

【14th TIMM】欧米のライブエンタテイメント市場におけるチケット転売問題と日本の現状
▲会場の様子