アーティストの海外進出の拠点を作る 〜 日本音楽の海外へのプロモーション事業「J-Music LAB」日本レコード協会 副会長 重村博文氏

2016年1月7日 21:45
日本レコード協会 副会長、キングレコード(株) 代表取締役社長 重村博文

日本レコード協会 副会長、キングレコード株式会社 代表取締役社長
重村博文氏


一般社団法人 日本レコード協会による、日本音楽の海外へのプロモーション事業「J-Music LAB」が業界内外で注目を集めている。2013年にインドネシア・ジャカルタからスタートし、今年で3年目を迎えた「J-Music LAB」は、先日11月のタイ・バンコク開催に続き、2016年1月15日・16日・17日の三日間、台湾・台北で「J-Music LAB 2016 in Taipei」を開催する。当日は日本人アーティスト8組によるライブパフォーマンスの他に、現地のファンとの交流会や日本アーティストのビデオコンサート、日本音楽に関するビジネス商談会などが予定されている。「J-Music LAB」の経緯や日本音楽のアウトバウンドの実情について、日本レコード協会 副会長であり、海外マーケティング委員会委員長を務める重村博文氏(キングレコード株式会社 代表取締役社長)に話を伺った。

2016年1月7日 掲載

日本レコード協会
J-Music LAB2016 in Taipei 特設サイト
J-Music LAB オフィシャルfacebook ページ

 

日本の音楽のムーブメントを作る

 

—— 「J-Music LAB」がスタートした経緯をお聞かせ下さい。

重村: 日本レコード協会では、中国における権利認証業務、TIMM(東京国際ミュージックマーケット)への協力、また2008年から海外向けの音楽ポータルサイト(英語、中国語)の運営など会員社の海外展開の支援を行ってきました。

ご承知の通り、日本のアニメソング、アイドルなどは海外でも人気を博していますが、それ以外のJ-POPやJ-ROCK、演歌や歌謡曲などというのはまだまだ開拓の余地がある。そこで、日本の音楽のムーブメントを作る事によって、アーティストがより進出しやすい下地、環境を整えるべく、拠点作りという事で「J-Music LAB(ジェイミュージックラボ)」という海外プロモーション事業を打ち出し、活動を始めました。

—— 初回の「J-Music LAB」は2013年に開催されましたね。

重村:そうですね。同年に海外におけるコンテンツのプロモーションやローカライズの支援を目的とした政府のJ-LOP助成金制度ができました。この制度を活用し、かつ官公庁・各関係団体・各企業のご支援を受け、2013年の11月から12月の1ヶ月間、インドネシアのジャカルタ市内のカフェを借り切って日本音楽の情報発信を行いました。併せて7組のアーティストが週替わりでライブを行いました。

非常に反響がありまして、翌年2014年の8月と11月にも7組のアーティストが現地の人気イベントでライブを行いました。ライブが終わった後の握手会やサイン会では、CDもたくさん売れましたし、非常に手応えを感じましたので、さらに拡大展開しようと来年1月には「J-Music LAB 2016 in Taipei」を予定しています。台北では、8組のアーティストによるショーケースライブに加え、日本および現地企業による音楽関連のブース出展、商談会、高音質音源試聴会を実施いたします。

—— 3回目に台湾を選んだ経緯は?

重村:政府の知的財産戦略本部による「知的財産推進計画2014」の策定にあたり、内閣府の知財事務局が音楽産業の国際展開タスクフォースという会議を立ち上げ、その検討結果が同計画に記されています。この会議では、お忙しい中、業界関係団体の代表の皆さんが参加して今後の海外展開に関する方向性について検討致しました。その検討の中で、海外展開のターゲットとなる国・地域は、やはり日本文化になじみが深いアジアを中心に考え、特に重きをおくところとして、ジャカルタ、シンガポール、そして台北の3ヶ所が選ばれました。

まず、ジャカルタがあるインドネシアは人口2億数千万人の国で親日です。シンガポールは非常に小さい国ですが親日で、しかもそこから発信される情報はアジア全体に行き渡るというメリットがあります。そして、台北ですが、親日はもちろんのこと、台湾出身の歌手が日本でも活躍しているなど日本音楽と深いつながりがあること、また中国や香港への波及効果も期待できるという点が挙げられます。この3ヶ所を核として、タイやマレーシアでも活動を展開したいと考えています。

J-Music LAB2016 in Taipei 特設サイト
J-Music LAB2016 in Taipei 特設サイト

—— 確かに中国本土で受け入れられているコンテンツは台湾を経由していたりしますよね。

重村:そのようなケースは割と多いですね。日本の音楽もそのような効果を期待したいと思います。

—— 第1回目、2回目の「J-Music LAB」に来た現地の観客は、アーティストのことをもともと知っている感じでしたか?

重村:やはり2013年の初年度は「J-Music LAB」で初めて知った方も多かったように思いますが、アニソンに関しては、観客が一緒に日本語で合唱するという大変な盛り上がりを見せました。もちろん人気のあるJ-POPアーティストも出演しましたので、そちらでも合唱するシーンがありました。

日本のアニメというのは海外でも根強いファンがいて国内とほぼ同時期に情報をキャッチしています。それはアジアでも、アメリカやヨーロッパにおいても同じです。ですので、彼らはまずアニメを通じて日本語を覚えたりもします。

更にその主題歌や挿入歌であるアニソンも覚えます。アニソンを歌う日本のアーティストがシンガポールに行くと、空港での熱烈な出迎えがありますし、ライブ会場では観客が総立ちになりアニソンを日本語で大合唱ということになります。そういう意味で、先ほど申し上げたように、アニソンは既に情報が伝わっていて説明が不要で、観客の反応は非常に良いんですね。

—— アニメが良い情報発信源となっているということでしょうか。

重村:そうですね。良い情報発信源になっています。

—— 裏を返せば、音楽そのもので知名度があるというパターンはまだまだ少ない?

重村:それは一概には言えません。例えば、L'Arc〜en〜Cielや福山雅治などは既に情報が伝わっていて人気を博していますし、現地で誰もが知っている日本の音楽もあります。しかし、様々なジャンルをもつ日本の音楽をもっと世界に伝えたいと考えています。

—— まずアジアからいうことですが、なぜ欧米からではないんですか?

重村:欧米ではこれまでにもアニメやコミックなどのフェスティバルが開催されてきました。もちろんアニソンもだいぶ知られていますが、日本文化の受け入れには若干時間がかかると考えています。また、アジアについては、K-POPの進出の例があるなど、我々も危機感を持っていました。そのため、日本文化を受け入れる土壌があるアジアで、もう少し日本の音楽を伝えていこうというのがこの取組の狙いです。
 

 

アーティストの海外進出の拠点を作る
日本音楽の海外へのプロモーション事業「J-Music LAB」


海外需要を取り込むのは音楽業界の大きな課題

 

日本レコード協会 副会長、キングレコード(株) 代表取締役社長 重村博文

—— 先日のTIMMのトークセッションで、現地の方と日本を繋ぐエージェントが不足しているというお話もあったと思うのですが、その部分に関して「J-Music LAB」ではどのような取り組みをされていますか?

重村:B to Cの目的とB to Bの目的で、去年のインドネシアではライブの前日に業界関係者の方々を集めてレセプションを実施しました。現地でのビジネスパートナー探しも大切なことですし、そこからビジネスチャンスが生まれることを願っています。今回の台湾でもB to Bを目的とした商談会や同様のレセプションを開きます。

—— B向け、C向けの両方をやっていくと。

重村:ええ。また、11月のタイの商談会には現地企業が約40社が参加してくださいました。B to Bの商談会としても有効な取組だったと思います。

—— どのような企業が参加されたんでしょうか?

重村:レコード会社・レーベルやテレビ・映画関係やイベンター・プロモーターの会社が中心でしたが、あらゆるコンテンツ産業の方々に参加していただきました。タイは親日国なので、日本のコンテンツが欲しいという業界関係者も多かったですね。

—— 実際に現地で「J-Music LAB」を開催して得たノウハウも多いのではないでしょうか?

重村:そうですね。日本レコード協会としても色々な情報を集めていますが、例えば、タイとインドネシアでは現地で受け入れられる楽曲も異なりますし、CDやグッズを輸出するときの関税の仕組みも違いますから、中々ワンパターンというわけにもいきません。

また、イベントを通じて、現地でのメリット・デメリット両方を経験しますので、そういった経験は次の開催に生かしています。従いまして、今後はただ向こうに行ってライブをして日本の音楽を紹介するだけではなく、音楽プラス、例えば、日本の衣食住だったり、その他の文化的側面も一緒に紹介していく施策を実施するべくJETROさんなどともと話し合っており、来年度から実際に取り組みたいと考えています。

—— 音楽だけではなく日本文化を交えていこう、と。

重村:例えば、食については寿司や日本酒をはじめ「和食」というものが世界中に広まっていますし、訪日客も年々増えていますので、そこは切り離さず一緒に、ということです。そのほうが効果的ですし、日本全体にとってもプラスであると考えます。

—— ちなみに政府や観光庁とはどのような座組みになっているのですか?

重村:11月のバンコクでは、日本政府環境局・観光庁が主催する「VISIT JAPAN」のイベント「FIT Travel Fair」と、経産省・マンガフェスティバル実行委員会が主催するマンガを紹介するイベント「マンガフェスティバルinタイ」、そして我々のイベントはJETROさんとの共催で「J-POP Signature×J-Music LAB2015 in Bangkok」、この3つのイベントをオールジャパン体制の「JAPAN WEEKEND」として同時期・同エリアで開催しました。インバウンドのことに関しては観光庁さんが中心になるかと思いますが、今後も連携していきたいと思っています。

—— 国内レコードメーカーやレーベルの海外への意識は高まっていると感じますか?

重村:そうですね。国内の需要に関して、若年層の人口減は避けられない状況で市場の拡大を考える上で海外需要を取り込むのは、音楽業界の大きな課題だと思います。

—— 現場の方にお話を聞くと「今は内需でまかなえているし、外に出ていく体力がない」という方もいらっしゃいます。

重村:しかし、5年後に2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えており、日本をアピールする絶好のタイミングであることは間違いなく、グローバル社会において日本語がアニメなどを通して少しずつ世界中の若い人たちに浸透していることから、海外進出のハードルが次第に低くなってきている実感があります。ただ、海外では音楽や映像もデジタル配信が進んでいますからアーティスト、事務所、権利者のご了解を得ながら一歩一歩進めていきたいと考えています。

—— 今まで「J-Music LAB」をきっかけに、実際にビジネスが生まれたケースはありますか?

重村:海外でのライセンスが決まったり、「J-Music LAB」をきっかけに参加アーティストが海外へ呼ばれる機会が増えたと聞いていますし、海外において活動が認められ、そして国内でも活躍するというケースがあるとも聞いています。

—— 逆輸入ですね。

重村:ええ。そういうことに繋がっていけばいいのかなと思います。国内・海外の垣根を越えて活躍できる機会が増えていけば良いと考えています。
 

 

アーティストの海外進出の拠点を作る
日本音楽の海外へのプロモーション事業「J-Music LAB」


日本の音楽の幅広さ、奥深さを伝えていきたい

 

日本レコード協会 副会長、キングレコード(株) 代表取締役社長 重村博文

—— ただ「『クールジャパン』も苦労している」という話も聞きます。

重村:海外展開での課題は、ライブだけではマネタイズが難しいという点です。やはりいろいろな角度からビジネスを考えた上で事業を展開しなければ長続きはしません。今まではJ-LOPの援助がありましたが、いつまでも援助に頼っているわけにはいきません。ですから、あらゆる業界の方々と手を携えて、チャンスメイキングをしていかなければならないと考えています。

例えば、あるアーティストは海外で1万5000円の入場料でも千数百名規模の会場は満員になります。でも、スタッフ含め多くの人員が渡航しますので、入場料収入だけでは黒字にならない。そこで、このライブ映像を日本の映画館でライブビューイングにて公開することにより収益化を図るケースや、CD・グッズ販売により収益を図るケースなど、様々な取組を行い海外展開におけるビジネススキームを構築する方法を見つけることが急務だと思います。

—— 実績とその国に合った枠組みから成功のケースを導き出す、と。

重村:先ほどの「『クールジャパン』は苦労している」という話に関して、成功例として韓国の話がよく出ますが、これは当然のことです。韓国は自国の音楽マーケットが小さい。ところが隣の日本には十倍のマーケットがあるわけで、その日本での成功が収益を生み、次への活動資金となっています。

何をもって成功とするかは特にレコードビジネスでは難しい。音楽業界でいえば日本より大きなマーケットはアメリカしかありませんので、アメリカで成功すれば大成功と言えるのでしょうが、、例えばイギリスは日本の半分のマーケットしかありません。アニメが人気のフランスはどうかというと、もっとシェアが小さい。東南アジアは更に小さい市場です。

ただ、アジアは人口が多く、経済成長が著しい為、今後生活に余裕ができれば余暇の時間も増えるはずです。デジタル配信、最近ではサブスクリプションサービスや既に台湾ではハイレゾ配信が開始されていますし、将来的な展開も含めてマーケットが大きくなることが予想されます。もちろん最終的な課題として「欧米に出ていく」ということはあるのですが、まずはアジアにおけるビジネス展開、活発化の可能性はあると考えます。

—— なるほど。非常に体力を使うかもしれませんが、着実に続けていくことが重要ですね。

重村:何事も継続ですね。K-POPはダンスミュージックに特化し、ドラマと連動させています。対して、日本の音楽の特徴は多岐にわたるジャンルが存在することです。日本にもファンがいるように海外にもファンがいます。ですから偏ったジャンルではなくて、日本を理解してもらうためにも、様々なジャンルの日本音楽を並行して提供し情報発信していくことが大事だと思います。

—— ちなみにライブイベントをネットで生配信するといったこともされているのでしょうか?

重村:台湾に関しては、生中継ではないのですがニコニコ動画でアーカイブ形式による配信を予定しています。それは国内向けになりますが、台湾には行けない方もいらっしゃいますのでライブの模様を是非見て頂きたいと考えています。

—— 「J-Music LAB」に関して、ファンや業界の方も含めて、漏れ伝わってくるのが断片的な情報だったりするので、映像を通じて現地の様子を知りたいというニーズはあると思います。

重村:そうですね。アニメにしてもアイドルにしても、現地のファンの盛り上がりを見たら、日本のファンは「これ日本じゃないの?」と驚くと思います。コールにしても振り付けにしても日本と全く同じなのです。海外の方々も日本の音楽ファンと同様に情報に敏感で非常に勉強されています。

—— 現地の日本好きな人には確実に届いているわけですね。

重村:まずは日本のことが好きな方から広げていくことですね。あまり焦ってやってもしょうがないので、着実に広げていければ・・・点を線に、線を面に広げていけると考えています。それが我々の考えです。

しかし海外には本当に日本のアーティストのファンが多いです。ここ数年で確実に増えています。特にインドネシアの人たちは日本の曲が好きなんですね。五輪真弓さんの『心の友』は代表例です。現地の方々が日本語で合唱されるのを聞くと非常に驚きますよ。

—— 『心の友』についてはMusicman-NETでニュースとして取り上げたら、現地インドネシアからのアクセスがすごく多かったです。

重村:やはりそうですか。日本の音楽が好きな国は我々の想像以上に多いです。日本の音楽が海外でも受け入れられる素地があることに我々はもう少し自信を持っても良いと思います。

—— 重村さんご自身が「今、日本が盛り上がっているな」と感じる国はありますか?

重村:台湾にはもともと潜在的に日本ファンがたくさんいますし近年日本のアーティストの公演も数多く行われています。しかも現地からのリクエストで公演が実現していますので、受け入れる「土壌」は確実にあると感じています。またインドネシアにも注目しています。

—— 近日の台北での開催も楽しみですね。

重村:そうですね。日本の音楽の幅広さ、奥深さを2日間のライブでご理解いただいて、日本の音楽に興味を持っていただくとともに、日本の良さを理解してもらい、更に日本に来ていただくということに繋がれば、その役割の第一弾は果たせるのかなと思います。引き続き積極的に取り組んでいきたいと思います。

J-Music LAB 2016

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