連載第70回 音楽消費の場となったYouTube。音楽使用料は70円/人。定額制配信2030円/人に対し〜スティーブ・ジョブズ(22)

サイトリニューアルにともない、過去の記事にて表示くずれが発生する場合があります。
ご覧のみなさまにはご迷惑をお掛けしますが、順次対応を行っておりますのであらかじめご了承ください。

2017/07/27 (木) - 04:00

YouTubeのバリュー・ギャップ

連載第70回 音楽消費の場となったYouTube。音楽使用料は70円/人。定額制配信2030円/人に対し〜スティーブ・ジョブズ(22)
▲YouTubeの音楽使用料は極端に低い。YouTubeが音楽消費ナンバーワンの場所となったことで、世界の音楽産業で定額制配信に並ぶ二大トピックスになっているが、定額制配信の時と同様、日本は周回遅れに気付かない状況になってしまった

IFPI GMR2017のデータを元に計算。 http://www.ifpi.org/news/IFPI-GLOBAL-MUSIC-REPORT-2017


「YouTubeは音楽聴取の40%を占める一方で、売上のたった4%しかないんだ。こいつが課題なんだよ! (…)そのせいで機能不全を起こしていると気づいているけど、彼らにはどうでもいいんじゃないかな?たぶんね」

 一昨年(2015年)、ユニバーサルミュージックの旗艦レーベル、インタースコープを創業したジミー・アイオヴィンはインタビューでこう皮肉気味に語った(※1)。

 アイオヴィンは亡きスティーブ・ジョブズの友人だ。

 かつてiTunesミュージックストアの創業に、音楽業界側から多大なる貢献をし、本作品にも登場した(書籍Part2 第二章)

 beatsを立ち上げ、昨今のヘッドフォンブームを牽引した、音楽業界屈指の起業家でもあった。その実績を買われ、クックCEOから三顧の礼を受けて、Apple Musicの担当役員も務めてきた。

 翌年、国際レコード産業連盟のムーア会長も、動画共有の「いわゆる『バリュー・ギャップ』問題」を報告書の巻頭言に挙げた(※2)。バリューギャップ問題が定額制配信の成長と並び、世界の音楽産業にとって二大トピックスとなって2年の歳月が過ぎたが、定額制配信のとき同様、日本の動きは鈍いのだった。

 筆者も2014年の末にこの問題を、「YouTubeのジレンマ」と名付けて取り上げ、少なからぬ反響を得た(連載51回)。YouTubeで音楽を宣伝するほど、音楽を無料で済ませる人が増えるというジレンマだ。

連載第70回 音楽消費の場となったYouTube。音楽使用料は70円/人。定額制配信2030円/人に対し〜スティーブ・ジョブズ(22)

「YouTubeは放送と同じで、宣伝になるのだからそれでいいではないですか」

 そう話られ続けて10年が経った。現実には、どうだろうか。たとえば、筆者がコンサルティングした2015年末の国内調査だ。

「YouTubeでお気に入りの曲を見つけたら、どうしますか?」

 その問いに、

「YouTubeで繰り返し観るか、キャッシュを保存して無料ですませる」と答えた人、つまりYouTubeのみの無料ですませる人は、8割を超えていた。

「CDが売れないならYouTubeで宣伝して、ライブで稼げばいい」

 そう主張する人もいた。だが、「YouTubeで好きなアーティストができたらライブに行く」と答えた人数は、5%を切っていた(※3)。

 ある地点で、YouTubeは音楽を宣伝する場から、音楽を無料で消費する場に変わったのだ。余談だが、筆者は2005年にこの状況を予測して独立を決意し、会社を辞めた。そこから社会の変化に10年要したのは正直、予想外だったのでいらぬ苦労をしてしまった。

 いまや世界で9億人が動画共有で音楽を聴いているのだった。

 YouTubeのバリューギャップとは、何と比べたギャップなのだろうか。

 本来、音楽配信は相応の音楽使用料を払わなければ出来ない。だからiTunesや定額制配信が無料では、赤字でやっていけない。当然のことだ。

 が、動画共有となると、法の抜け穴を使い無料同然で音楽ビデオを配信できた(前回)。YouTubeはミュージシャン側に0.01〜0.1円/再生、年間で68円/人しか払っていなかった。定額制配信と比べるとたった30分の1だ(上図)。

 この支払い格差、バリューギャップを利用してYouTubeは広告モデルを確立してきた。2017年現在も音楽は、YouTubeの視聴数のうち三割を占めるキラーコンテンツだ(※b)。音楽はYouTubeで無料で聴くのが当たり前の時代は、そうやって出来た。

 この状況は、放送が登場した時に近い。

 アメリカで放送の普及が始まった時、同国の著作権法は放送を想定していなかった。そこを突いて、放送の先駆者であるラジオは音楽を無料で仕入れ、キラーコンテンツにして広告モデルをこの世に確立した(前回)。

 2014年が節目だった。

 スマホが若年層に普及すると、YouTubeは宣伝の場から、音楽を消費する場に変わった。そしてYouTubeは、各国で音楽を消費する場ナンバーワンになった。その傾向は、日本が特に著しいと調査は示していた。

 日本のスマホ・ネイティブ世代は、9割が「動画共有があればCDも音楽配信もいらない」と感じている。そう調査に出ていた。それは年々、この流れが強化されることを意味していた。

 Googleはこの現状に気づいている。が、解釈の違いを演じて気づかないふりをしているようだと音楽業界の起業家ジミー・アイオヴィンは冒頭のインタビューで皮肉ったのだ。

 しかし、これは待ち受ける大変動の始まりに過ぎない。

 危機をいち早く認識した者は、先んじてイノヴェーションを生み出せる。逆に、大事になるまで受け入れられなければ時代に取り残される。

 日本が気づかぬ間に、Spotifyに続く大規模な投資がすでに始まっていた(続)。

※1 http://www.latimes.com/business/technology/la-fi-tn-jimmy-iovine-20151007-story.html
※2 http://www.ifpi.org/downloads/Digital-Music-Report-2015.pdf
※3 https://newspicks.com/news/1712017/body/
本調査の詳細はレコード協会の特別セミナーで講義したので、協会会員は資料を入手できると思われる。
※b https://musicindustryblog.wordpress.com/2016/07/22/understanding-15-how-record-labels-and-artists-can-fix-their-youtube-woes/


 

>> [TOPへ]

 

●次回は<2017年8月2日>更新予定!
【連載第71回「アメリカで盛り上がる著作権法改正運動のうねり。その先にある未来」】


矢印(赤)バックナンバー

著者プロフィール
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)

 榎本幹朗

 


1974年、東京都生まれ。上智大学英文科出身。大学在学中から映像、音楽、ウェブ制作の仕事を始める。2000年、スペースシャワーネットワークの子会社ビートリップに入社し、放送とウェブに同時送信する音楽番組の編成・制作ディレクターに。ストリーミングの専門家となる。2003年、ぴあに入社。同社モバイル・メディア事業の運営を経て現在は独立。作家活動とともに、音楽メディア・音楽配信・音楽ハードの戦略策定やサービス設計を専門とするコンサルタントとして活動中。京都精華大学非常勤講師。東京都、自由が丘在住。本連載を書籍化した全六巻の大作「未来は音楽が連れてくる」( http://otocoto.jp/otobon/mirai.html )の刊行が始まっている。
Facebook:http://www.facebook.com/mikyenomoto
Twitter:http://twitter.com/miky_e