ソニーミュージックの新たな挑戦、逆転の発想から生まれた新機軸オーディション「Feat.ソニーミュージックオーディション」プロデューサー 梶望氏にインタビュー【後半】

2018年9月18日 12:00
梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


ソニーミュージックがおくる音楽トレンド創出オーディション「Feat.ソニーミュージックオーディション」が、2018年1月よりスタートした。

本オーディションのグランプリを受賞する条件は「音楽トレンドを作る」こと。トレンド作成に必要な予算、スタッフ、インフラ、ワークショップなどをソニーミュージックが全面バックアップし、アーティストのトレンド作りにソニーミュージックが“Featuring”参加するという新機軸のオーディションとなる。

楽曲やライブパフォーマンス、セルフプロデュース能力までもが審査の対象となる現代ならではのオーディションに総数1000組を越える応募が集まり、1次審査、2次審査を経て、ファイナリスト6組(あさぎーにょ、KID CROW、SUKISHA、ドアノブロック、葉山柚子、夜中出社集団 ※五十音順)が決定。

ファイナル審査では、今回のオーディションのために開発された独自のアルゴリズムによる音楽トレンドランキング上で競い合う。

また、7月からは「GYAO!」「MUSIC ON! TV(エムオン!)」にて、ファイナリストに密着した音楽リアリティ番組「Feat.ソニーミュージックオーディション」が全12回にわたり放送中だ。

今回のオーディションで特筆すべきは、各ファイナリストに応援資金300万円が用意されている点。ファイナリストはこの応援資金から、様々な施策を行いながらオリジナルの「音楽トレンドを作る」ため日々、切磋琢磨している。

9月28日には1名の脱落者が決まり、10月9日にZepp DiverCity(TOKYO)で開催されるファイナル審査イベントに向けて盛り上がりを見せている中、今回Musicman-netでは宇多田ヒカル、MIYAVI、小袋成彬など様々なアーティストの宣伝プロデュースで知られ、本オーディションのプロデュースを担当する梶 望氏ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)にインタビューを敢行した。

▼前半はこちらから!
ソニーミュージックの新たな挑戦、逆転の発想から生まれた新機軸オーディション「Feat.ソニーミュージックオーディション」プロデューサー 梶望氏にインタビュー【前半】

梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


チャンスを広げる盛大な実験の場


――10月9日にはグランプリ発表を含めたファイナル審査イベントが開催されますよね。その直前に1名が脱落するのは、オーディションを盛り上げるための一環でしょうか?

梶:300万円から家賃を支払おうとする人も出るだろうなと思っていたら、本当に出て(笑)。ほかにも機材車買って終了とか、そういうことになりかねないので「ちゃんと真面目にトレンド作ってくださいね」ということも踏まえて、競い合う要素は作らないといけないので。

――なるほど(笑)。これまでのオーディションの最終審査とは趣向が違って面白いですよね。観客も何かが起きることを期待していると思います。

梶:僕らはオーディションという形で観客も参加して楽しんでもらえる場を提供しているってことですよね。今回のオーディションがなければ、恐らく知ることができなかったこともたくさんあっただろうし、僕らにも、参加してくれているファイナリストにも、いろんなチャンスが周りから新たに生まれているので、そういったチャンスを広げることに意義があると思います。

――オーディション終了後には数値的な指標みたいなものはあるのでしょうか?

梶:数値的なKPIは設けてはいないので、次の音楽ビジネスを作るヒントが1つでも作れたらそこで達成という感じはしますね。僕らの持っている既成概念に、新しい種を芽吹かせるかが大事になってくるので。

それと、僕らが普段行なっているレーベルビジネスは、当然、強く結果を求められるので、周りも巻き込みづらくなってしまうし、なかなか冒険もできないのですが、オーディションはある部分すごく責任がありつつ、ある部分では無責任でいられる側面があって。

だからこそ気軽にトライできるというか、せっかくそういう場があるんだったら盛大に実験してみるのが良いんじゃないかと。上手くいけばビジネスに転換すれば良いですし、そういうことも含めていろいろな選択肢があり、自由さがありますね。

それこそ、KID CROWのAIによる作曲支援システムも、このことをきっかけに社内でビジネスが広がってくれれば、それはそれで役割を果たしていると言えますし、既存のレーベルビジネスに固執している人たちに対して新たな気づきのきっかけとなることができれば、レーベルや会社全体にとってもすごくプラスになります。

――今や音楽を聴くスタイルは様々ですし、トレンドを掴むことがとても難しいと実感しているので、そういった情報を共有する場所もできてくる気がします。

梶:全員がお茶の間で知っている…というようなことよりも、ひとりひとりに深くささっていった結果10万人を熱くしていればそこでビジネスが成り立つというのが昨今のヒットのパターンなのかなという気もしています。

ただ、ストリーミングが主体のサービスになっていくと、単価が下がってしまうので、リスナーの分母を増やしていかないと。今までと同じようなビジネスでは収入が得られなくなってしまう。

なので、僕らが今後目指すべきは海外だと思っています。YouTube等の動画サービスであれば国外でも見ることができますし、海外に広げていくためには絶対にソーシャルの力が必要になってきますよね。

今の海外の若いリスナーは国境も言葉も関係なくなってきていて、宇多田ヒカルのファンも若い子たちを中心にUSですごく増えてきています。そういう意味で言うと、ソーシャルでのコミュニケーションや広げ方のノウハウは国内外を視野に入れてためていかなきゃいけないと思います。

今回は国内のプロジェクトですが、海外のソーシャルも取り込んだ実験的なプロジェクトというのは今後もやっていきたいですね。
 

戦略があってこその戦術


――アメリカでは10代のSNS離れ、スマホ離れが始まっているといった調査結果も出てきています。こちらが海外に出て行こうとしている瞬間に、海外では新しい動きが出てき始めて、いたちごっこの様になっている面もありますよね。

梶:次のトレンドや新しいプラットフォームが生まれるスピード感は、今のマーケットの特徴だと思いますね。それに対して僕らが陥りがちなのは、新しいプラットフォームが流行っているから使わなければいけないというような脅迫概念にとらわれてしまうことですよね。

僕がセミナー等で登壇する際にお話しさせていただいているのは「あれは全部戦術ですから」と。まずは戦略があって戦術があるべきなのに、戦術でしか語られないから上手くいかないんです。手段が目的になってしまったら本末転倒です。

では戦略はどう作るのかと言えば、曲があってリスナーがいるわけなので、その曲をリスナーに届けるための戦略やビジョンがあって、そのビジョンを成立させるために手段としてソーシャルを使う。それはテレビ、ラジオ、新聞、何でも良いですが、その戦略が見えていないと戦術が活きてこない。

実は我々よりもファイナリストの方がそこを理解している。リスナーと自分をダイレクトに繋げることがそもそも戦略なので、その手段として何を選択するのかというのを一番理解しているわけですよ。

それにその先にあるユーザーの動きは2カ月ごとに変わってしまうので、僕らも水はけを良くしながら吸収しようとしています。

――ユーザー側も、そのスピード感で取捨選択することが普通になっている。

梶:「ユーザー自身のシチュエーションやモードと周りの環境がフィットしているどうかで、ユーザーが取捨選択する情報が変わってくる」

 その中で選択されることってすごく大変ですよね。そこをちゃんと理解していかないと、これからの音楽ビジネスを作っていけないだろうなという気はします。

――そういう時代だからこそ、承認欲求もより強くなっているのでしょうね。

梶:今回のオーディションでプラットフォームを限定しないようにしたのは、いろいろな方法が多様化している中でみんなが何を取捨選択して自分たちの承認欲求を満たすのか、そのプロセスを僕らは定点観測できるからです。

YouTuberオーディションのように限定したほうが楽ですけど、限定しないおかげで、毎日が発見、毎日が事件(笑)。

――これまでのトップダウンではない方式だからこそ、みんなが楽しんでできる文化祭的なノリといいますか。

梶:きっかけが50周年というタイミングでもあったので、文化祭に近いかもしれないですね。そういったお祭り感のノリもすごく大事にしています。

 

梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


原点に振り返るために


――個人の持つライブラリの量がここまで増えてしまうと、エバーグリーンな楽曲は生まれにくいのでしょうか?

梶:恐らく今の若い子にとって荻野目洋子の「ダンシングヒーロー」もTRFの「EZ DO DANCE」も、米津玄師の「Lemon」も括りとしてはどれも“新曲”なんですよね。

例えば、YouTubeの中でレコメンドされたのがエバーグリーンな曲だったとしても、初めてその曲に出会ったのであれば、その子たちにとっては時代に関係なくその曲が本人にとっては新曲になる。

音楽ビジネス的に言うと、聴き継がれている曲が日の目を浴びるチャンスが広がるという見方もできますし、そういう曲を今後も残していくためには過去の名曲を超えていけるようなものを作っていかなければいけないし、その高みを目指していかなければならない。

だからこそ、売れるものと売れないものがハッキリしている。昔は最初からお金を掛けてマーケットを既成事実的に作ることもありましたが、今はそういった右向け右のようなプッシュ型のものは通用しなくなっています。

オーディションの話に戻すと、そういう意味でも審査員側がリスナーであることはすごく大事だと思っています。最近では映画『カメラを止めるな!』のように、ファンが熱く語ってくれるようなオーガニックなヒットの形も出てきていますが、でもそれって「元の自然なヒットの形に戻っただけじゃないか?」と。

――エンタメ全体が原始的なところに回帰している。

梶:リスナーの立場に立ってみて、ではどうすれば音楽に目を向けてくれるのか、それを伝えたくなってくれるにはどうしたらいいのか、リスナーはどういうモチベーションで何を広げたいのか、など、僕らは原点に戻って考えなくてはならない。

だから、今回のオーディションでそれを一生懸命勉強しています(笑)。昔は学校での昼休みの会話だったものが、ソーシャルなものへと移行していますしね。
 

コンテンツ×リスナーを繋げるシンプルな考え


――梶さんは「余白と文脈が同時に作られることが大事」とおっしゃっていますよね。

梶:語られることはすごく大事ですね。「バチェラー」(恋愛リアリティ番組) では「次はこの人たちどうなるの⁉」みたいに、普通のドラマを見ているよりも、素人だからこそ次が気になっちゃいますし。1から10まで全部展開が分かるものはあまり広がっていかない。

――そのバランス感覚を見極めることは、すごく難しそうですね。

梶:そうですね。でも、すごくシンプルなものだと思っていて、要は聴き手とコンテンツを繋げるだけですよ。

それを考えるためにはいろいろな知識・情報が必要になるので、オーディションを通して僕らも勉強して、そこから得た知見を違うアーティストで繋げるときに、戦略や戦術の中でも役立てることがあるかもしれないということでもありますよね。

難しく考えすぎて「インスタで何かやろう」みたいに戦術に陥りがちですが、その「何か」が見えていないのであれば、別にインスタを使わなくてもいいんですよね。そしてその「何か」の答えは戦略の中にある。

結局はリスナーが喜ぶか喜ばないかですよ。今はリスナーがマーケットを決めているので、リスナーが喜べばそのプラットフォームは盛り上がるわけだし、戦略上にうまくのればそのコンテンツは広がっていく。

リスナーが使っているプラットフォームの中で、面白い打ち出し方ができる「何か」とは何か、それを戦略にそって考えていったほうが、可能性が広がっていきますよね。

なぜならベクトル(ビジョン)さえ決まってしまえば、それに向かっていろいろなリソースを用意すればいいだけなので。その中で上手くいく、いかないはありますが、必ず1個は上手くいくものが見つかります。そうすると絶対前に進んでいく。


 

梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


成功を生みだすヒント


――みなさんも成功を追い求めているわけですしね。

梶:僕自身ラッキーボーイと言われることが多いのですが、全然そうではなくて確率論の話なので。

セミナーでよく話しますが、1個の課題があったときに大抵は1個の回答しか持とうとしなくて、そこで可能性がないと諦めちゃうことがたくさんあるんですよ。

僕はそこで複数の回答というか、視点を変えた回答というのをなるべく広く持とうとします。仮に1個の課題に対して100通りの回答を用意できたとして、99が失敗してても1つの正解があったりもするわけじゃないですか。その成功したものがいいマーケティングだとするならば、成功事例には何かしらポジティブに働いているヒントが絶対にあるはずなので。

もちろん、全部駄目なときもありますけど、20個でも100個でもいいのですが、用意する回答が増えれば増えるほど1個ぐらい正解が残る確率が高くなるという、そういった確率論だけの話なんです。

その確率論も悪く言えば「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」みたいな話になりますけど、下手な鉄砲じゃなくて鉄砲は鉄砲で同じベクトルを向いていないと駄目ですよね。そこで戦略とかビジョンとかが大事になる。

――ちゃんと根拠を持たれた上で回答を用意している。

梶:でないと1個成功すると、あとは上手くいかなかったということになりますけど、なぜ上手くいかなかったかという知見も自分の中に溜まるわけです。

その知見があると、次の違うケースがきたときに「これは前のケースでははまらなかったけど、このケースだとはまるかもしれない」という、自分の中の引き出しが増えるので、そこでまた前に進むことができる。

一見ラッキーに見えることでも、実はラッキーの裏側には涙ぐましい水面下のバタ足があるわけです(笑)。とても面倒くさい作業ですけど、それをベースにやっている人とやっていない人とではものすごい差が開いちゃいますから。

あと、自分の中に全部回答があるわけではなくて「こういう課題があったら誰だったら助けてくれそうかな」とか、全然違う業種の人でも、もしかしたら解決のキーマンになってくれるかもしれない。自分のブレーンになってくれる人が何人周りにいるかというだけでも、その確率って無限大に広がっていきますよね。

――異業種をどう音楽に転換できるか、発想力を問われるときでもありますしね。

梶:そうですね。成功事例には何かしらポジティブに働いているヒントが絶対にあるはずなので、どんどんシェアしていったほうが良いかなと。

そのヒントを活用できるかどうかはその人次第なので、それを糧にぜひ新しいことにチャレンジしていって成功してほしいです。そして次の成功へのヒントを僕に教えてほしいです(笑)。

「Feat.ソニーミュージックオーディション FINAL」概要
750組1,500名を招待(観覧応募先)
日程:2018年10月9日(火)
時間:17:45開場/18:30開演
会場:Zepp DiverCity(TOKYO)
出演(ファイナリスト):あさぎーにょ/KID CROW/SUKISHA/ドアノブロック/葉山柚子/夜中出社集団 ※この中から5組(9月28日決定)
出演(MC):平井“ファラオ“光(馬鹿よ貴方は)/池田美優
ゲスト:あり
 


ソニー・ミュージックレーベルズ EPICレコードジャパン 部長
梶 望


1971年静岡県生まれ。中央大学理工学部卒業。95年(現)日本コロムビア入社。96年(当時)東芝EMI入社(その後、EMI MUSIC JAPANへ社名変更。ユニバーサル ミュージック合同会社に吸収合併)。宇多田ヒカル、AI、今井美樹、MIYAVI、GLIM SPANKYなどの宣伝プロデュースを担当。17年、宇多田ヒカルのレーベル移籍に伴い、ソニー・ミュージックレーベルズに入社。