ソニーミュージックの新たな挑戦、逆転の発想から生まれた新機軸オーディション「Feat.ソニーミュージックオーディション」プロデューサー 梶望氏にインタビュー【前半】

2018年9月14日 18:00
梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


ソニーミュージックがおくる音楽トレンド創出オーディション「Feat.ソニーミュージックオーディション」が、2018年1月よりスタートした。

本オーディションのグランプリを受賞する条件は「音楽トレンドを作る」こと。トレンド作成に必要な予算、スタッフ、インフラ、ワークショップなどをソニーミュージックが全面バックアップし、アーティストのトレンド作りにソニーミュージックが“Featuring”参加するという新機軸のオーディションとなる。

楽曲やライブパフォーマンス、セルフプロデュース能力までもが審査の対象となる現代ならではのオーディションに総数1000組を越える応募が集まり、1次審査、2次審査を経て、ファイナリスト6組(あさぎーにょ、KID CROW、SUKISHA、ドアノブロック、葉山柚子、夜中出社集団 ※五十音順)が決定。

ファイナル審査では、今回のオーディションのために開発された独自のアルゴリズムによる音楽トレンドランキング上で競い合う。

また、7月からは「GYAO!」「MUSIC ON! TV(エムオン!)」にて、ファイナリストに密着した音楽リアリティ番組「Feat.ソニーミュージックオーディション」が全12回にわたり放送中だ。

今回のオーディションで特筆すべきは、各ファイナリストに応援資金300万円が用意されている点。ファイナリストはこの応援資金から、様々な施策を行いながらオリジナルの「音楽トレンドを作る」ため日々、切磋琢磨している。

9月28日には1名の脱落者が決まり、10月9日にZepp DiverCity(TOKYO)で開催されるファイナル審査イベントに向けて盛り上がりを見せている中、今回Musicman-netでは宇多田ヒカル、MIYAVI、小袋成彬など様々なアーティストの宣伝プロデュースで知られ、本オーディションのプロデュースを担当する梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)にインタビューを敢行した。

 

梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


変化するアーティストとレーベルの関係


――今回のオーディションを初めて知る方もいると思うので、このプロジェクトが始まったきっかけを教えていただけますか?

梶:今年はソニーミュージックグループが設立50周年を迎えるアニバーサリーイヤーということもあり、様々な事業を展開する中の1つとしてオーディションプロジェクトも立ち上がりました。

プロジェクトチームには、SMLの各レーベルから1名ずつ代表者が選ばれました。僕はソニーミュージックグループに来て間もないですが「逆に客観的に見ることができるだろう」ということで、今回のプロジェクトを担当することになりました。

プロジェクトを進める議題の中で、オーディションを受ける人たちの目的(ゴール)がそもそも変わってきているのではないか? という原点の部分を見つめ直す話し合いが行われ、そこから今回の「Feat.ソニーミュージックオーディション」が発足しました。

――オーディションで優勝した人をレーベルで育成してヒットを作るような既存の流れが、いまの時代に求められていない、ということでしょうか?

梶:全く求められていないわけではないですけど、プラスαが必要ですね。これまではメジャーデビューが大きな価値を持っていましたが、そのステイタスへの憧れみたいなものが段々と薄れていって…そこに自分たちもあぐらをかいていられない時代が来たのを自覚したといいますか。

――個人が自由に発信してお金を稼ぐツールやプラットフォームが生まれている中で、そこにレーベルがどう関わっていくのかが見えづらくなっていますよね。

梶:今までは、メディアだったらテレビや新聞、ラジオなどで表に出なければ大勢の人に知ってもらうこともできなかったし、音楽をたくさんの人に聴いてもらうためにはレコード会社でレコードなりCDなりを作って、全国的な流通に乗せなければ届きませんでしたよね。

それがストリーミングのようなプラットフォームが台頭することによって、音楽ビジネスの在り様が変わっていく中で、会社全体としても、レーベルで働いている個人個人としても、レーベルのあり方をすごく考えている。要はアーティストにとって僕らは本当に必要なのか、というところですよね。

それはレーベルだけでなく、メディアも然りで、今ある音楽ビジネスをより良くしていくことを考えていかなければならないわけですけど、アーティストが良い作品作りをする環境があり、聴いてくれるリスナーの良い環境があれば、そこにビジネスは生まれていくと個人的には思っているので、今までと伝え方が変わったからといって未来は無いということではないんです。

 

梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


逆転の発想から生まれたオーディション


――その環境を作るための1つの方法として「Feat.ソニーミュージックオーディション」が生まれたと思うのですが、グランプリを受賞する条件が「音楽トレンドを作る」こと、と今までのオーディションにはない審査基準ですね。

梶:既存のオーディションは、審査する側と審査される側というヒエラルキーがあったと思います。でも「Feat.ソニーミュージックオーディション」では、審査するのが一般の人たちなので、“審査員”がいない。審査員がどこにいるか分からないソーシャル上のブルーオーシャンみたいなものなので、まずその概念が今までと違うところですね。

また、なぜ「トレンド」なのかという話ですが、これまで何十年も信頼されてきた既存のチャートは、僕ら世代にとって重要な指針だったとしても、10代の子たちはほとんど毎週チェックしていない現状で。

今はいろいろなところでステルスマーケティングが行われていることも知っているので、若い子たちはトレンドのチャートを追っています。Instagram(インスタ)であればハッシュタグで検索したり、TwitterやYahoo!のトレンドランキングをチェックしたり、常に世の中の今の流行だけは見ているぞ、と。

我々もプロモーションにおいて、音楽が売れるためにいかにトレンドのランキングの中で話題にしてもらえるかをひとつの指標にしていますが、トレンドチャートの中だけで戦うというのは、言ってしまえばネタとしての要素が強くなってしまう。

最近は、お笑いネタや時事ネタなどと一緒に音楽もネタのような形で入ってきますが、そうではなく“純粋に音楽のトレンドからマーケットを作れないか”という逆転の発想で、音楽や作品が主語になっているトレンドを生み出して、審査員であるソーシャル上の一般の方々から正当に評価されたものを独自のアルゴリズムでスコア化して競い合う。そういったオーディションを提案してみたら通っちゃって(笑)。

――(笑)。実験的であり、知見をためていくためのオーディションでもあるような印象を受けました。各ファイナリストに用意された応援資金は300万円と高額ですが、トレンドを作っている人たちが新しいマーケティング方法を生み出してくれることを期待してのものですか?

梶:はい。まさしくそれは1つの理由で、ビジネスにどう繋げていくのか、今は3つ考えています。1つは若い子たちのトレンドの作り方を我々の知見として吸収していくところ。

もう1つは、それによっていろいろなデータを得て、解析のノウハウを蓄積できること。

今回の音楽トレンドランキングについて説明すると、まずは主語が音楽でなければなりません。それぞれのアーティストにはフォロワー数などに差があるので、そこを正当に評価するには、それぞれのアーティストの成長曲線を僕らがある程度予測して、そこに対して上振れているか下振れているかによって加点します。あとはオリジナル楽曲であればあるほどスコアは高くなります。

それをどう評価していくかという知見自体が、今後のプロモーションにおける判断基準にもなり得るので、マーケティングツールの開発という要素もあります。

あともう1つは、その後の話になりますが、今回のオーディションのファイナリストたちは、これまでのオーディションで残ってきた人たちとは少し系統が違います。

もちろん正統派もいますけど、その人たちと新しい音楽ビジネスを作っていく流れは、今までの形とは違うものになると思っています。

ソニーミュージックからデビューしたいと思うよりも、300万円を使って「自分たちのトレンドを作って世の中にいかに承認してもらえるか」ということに対してモチベーションを高く持っているので、「ゴールがデビューすることじゃないってどういうことなの?」という議論にもなっていますけどね(笑)。
 

自己プロデュースの重要性


――ファイナリストの方たちは、こちらが思っているよりも堅実で戦略的で、そしてそれを経験から身につけていますよね。

梶:今日レコーディングしたら明日撮影して配信する、みたいにスピード感覚も全然違いますよね。それを僕らが定点観測することによって、今何が世の中に通用するのか、音楽がどう受け取られているのか、非常に勉強になっています。

YouTubeではあさぎーにょが圧倒的に人気ですが、Up Liveの世界では葉山柚子さんが、日本だけでなくアジア圏でも多くのファンを獲得していて、レーベルの力がなくてもそこで小さい規模ながらも音楽ビジネスが成り立っている。

この例えが正しいかどうかは分からないですが、仮に実体経済でのヒットがメジャーレーベルだとしたら、彼らはビットコインのようなオンライン上の経済圏でヒットしているという感覚で、それを僕らは看過していては駄目だと。

かつては、メジャーデビューという分かりやすいゴールがあるからオーディションが成立していたと思いますが、今回のオーディションを進めていくうちに「確かに彼らは普通のオーディションには応募しないよな」という感じがだんだんと分かってきて。

――あえてレーベルに所属しなくても、表現したいことは自分たちでできてしまう時代ですよね。

梶:宇多田ヒカルも自己プロデュース能力がすごく高いアーティストで、そういった意味では先駆けだと思っているのですが、今売れている人は、楽曲制作だけでなくミュージックビデオからステージまで、何から何まで全部自分でプロデュースする人が多いじゃないですか?

米津玄師、SEKAI NO OWARI、サカナクションなどもそうですが、そういう人たちが共感され、世間にアーティストとして認識されていますよね。

そのような流れもあって、アーティストとレーベルの関係もより対等になってきていると思います。では、対等であるためにレーベルは何を求められるかと言うと、自己プロデュース能力の高いアーティストが表現したいことを叶える環境をどれだけ提供してあげるかということ。

そういう意味で、今回のオーディションは「ソニーミュージックはフィーチャリング参加です! 我々はあなたたちのことは審査しません! あなたたちと一緒にオーディションで走ります」といった感じで、そのために必要なお金、人、リソースなどはお手伝いします、ということから「Feat.」と名付けています。

 

梶 望氏(ソニー・ミュージックレーベルズ[SML] エピックレコードジャパンオフィスRIA 部長)


楽しい場所には楽しい人が集まる


――プロジェクトごとに協力し合うチームのような関係ですよね。ソニーミュージックは手掛ける事業が本当に幅広いので、アーティストに提供できることも多種多様ですね。

梶:アニメやライブの事業もありますし、たくさんあるリソースをフル活用して可能性を探っていきたいですね。

話は変わりますが、僕の持論では、エンタメって楽しそうにやっている人のところに楽しい人が集まって、そこに野次馬が集まってさらに楽しくなるものだと思っていて、今回の企画は、ファイナリストも楽しくやってくれていますが、特にコアメンバーがすごくモチベーション高く面白がってやっています。今まで知らなかったものがいっぱい入ってくるので。

インスタのフォロワーを1週間で数千人増やす魔法なんて誰も持っていないので、それを目の当たりにすると、ある部分は僕らの一歩も二歩も先に行っていることを実感します。

――確かに、それを身近で体感できることは貴重な経験ですね。

梶:面白くやっていると周りから「手を貸しますよ」と声を掛けてくれる場合もあって。KID CROWがAIで曲を作りたいという記事から、「あの記事読んだんですけど…」といった感じでソニーやソニー・インタラクティブエンタテインメントのAIのチームが声を掛けてくれて。ビジネスは関係なく有志でやりますと言ってくれたり、そうやって仲間が増えていく感じってすごく良いですよね。

やはり会社が大きくなっていくにつれて全体が見えにくくなってしまうので、少しでも視野を広げて、相互のシナジー効果が生み出せるような、交流のようなものを今後やっていくような動きがあるので、今回の企画がそういうことの礎となれれば嬉しいです。

――新しい在り方が今回のオーディションを通して見え始めてきたと。オーディションが終わってからが本番みたいなところもありますね。

梶:たまった知見を何に活かしていくかということもそうですし、オーディションのグランプリ受賞者とB to CだけでなくB to Bでもビジネスをどう広げていくかも考えていきたいですね。

グランプリにならなくてもその人が面白い人であれば、何か面白いことやっていこうという想いもありますし、単に所属からのデビューだけではなく、新しいゴールをちゃんと作れたら最高ですね。

▼後半はこちらから!
ソニーミュージックの新たな挑戦、逆転の発想から生まれた新機軸オーディション「Feat.ソニーミュージックオーディション」プロデューサー 梶望氏にインタビュー【後半】

「Feat.ソニーミュージックオーディション FINAL」概要

750組1,500名を招待(観覧応募先)
日程:2018年10月9日(火)
時間:17:45開場/18:30開演
会場:Zepp DiverCity(TOKYO)
出演(ファイナリスト):あさぎーにょ/KID CROW/SUKISHA/ドアノブロック/葉山柚子/夜中出社集団 ※この中から5組(9月28日決定)
出演(MC):平井“ファラオ“光(馬鹿よ貴方は)/池田美優
ゲスト:あり


ソニー・ミュージックレーベルズ EPICレコードジャパン 部長
梶 望


1971年静岡県生まれ。中央大学理工学部卒業。95年(現)日本コロムビア入社。96年(当時)東芝EMI入社(その後、EMI MUSIC JAPANへ社名変更。ユニバーサル ミュージック合同会社に吸収合併)。宇多田ヒカル、AI、今井美樹、MIYAVI、GLIM SPANKYなどの宣伝プロデュースを担当。17年、宇多田ヒカルのレーベル移籍に伴い、ソニー・ミュージックレーベルズに入社。