SoundCloudが意識し始めたアーティストの収益化 「SoundCloud Premier」でできること

2018/03/12 (月) - 14:20
soundcloud 2018 monetize


SoundCloudは、アーティストや音楽プロデューサーの収益化を支援する招待制サービス「SoundCloud Premier」を大幅に拡張することを発表し、プロモーション機能などを新たに追加しました。

新たに追加された機能は以下の5つ。

1. プレイリスト・プロモーション
Premierクリエイターの新曲は、SoundCloudがキュレーションする「Fresh Pressed」など公式プレイリストで自動的に取り上げられる。

2. メディア・プロモーション

Premierクリエイターの楽曲はSoundCloudのSNSアカウントやメルマガ、オーディオ/動画プロモ、屋外広告などで優先的にプロモーションされる。

3. ブランドとのパートナーシップの機会創出

SoundCloudがPremierクリエイターと世界トップクラスのブランドとのパートナーシップを橋渡し、アーティストにさらなる露出と収益拡大の機会を提供する。

4. ライブ・ショーケース

SXSWやポップアップ・ライブなど、SoundCloudが世界各地で開催するライブイベントでPremierクリエイターは優先的に出演機会が提供される。

5. コミュニティサポート

Premierクリエイターには、専任のサポート担当や、Premierプログラムに関する特別な情報が提供される。

SoundCloudの狙いは、米国や欧州で活動するSoundCloudクリエイターや、人気アーティストたちを呼び込み、プラットフォームを使って収益化とプロモーションを拡大させることにあると考えられます。

「SoundCloud Premier」は日本向けには公開されていないため、日本人クリエイターやアーティストにはその存在すらも知られていませんが、日本から欧米進出を目指すクリエイターはこうした海外の事情は参考になるかもしれませんので、もう少し深く紹介していきます。
 

SoundCloudで稼げるのか?


SoundCloudは、作った楽曲や作品を手軽に自らアップロードして公開することができたため、アグリゲーターなどを使わずにスピーディーにコンテンツをファンに向けてシェアできるスピードとファンベース構築が売りでした。

その一方で、「SoundCloudはお金にならない」というイメージが長くつきまとっています。

2010年代に入り、SpotifyやYouTube、Apple Musicなど音楽サービスの多くは「プラットフォームの透明性」向上を目指す傾向が強まる中、いかにアーティストやソングライター、権利保有者対しての収益分配とビジネス拡大をミッションに掲げる兆しが高まり、広告ツールやデータ解析ツールの提供、ビッグデータの解放が積極的に行われています。

SoundCloudはそうした流れにも乗り遅れてきました。クリエイターに対する対価分配のシステムを導入したものの、その後の進捗はほぼ無しに等しい状態が続いてました。それが「SoundCloud Premier」です。

SoundCloud Premierは、アーティストの収益拡大を目指したプログラムとして2017年3月から招待制で開始しました。しかしながら、これまでSoundCloud Premierがいくらの収益拡大を実現したか、何人のクリエイターが恩恵を受けたか、その実績や推移は公表されていないため、認知度も貢献度もあまり一般には知られていません。
 

SoundCloud PremierをPRしたいSoundCloud


2017年にSoundCloudは存続さえ危ぶまれてきました。多くの従業員をリストラ、共同創業者でCEOのアレキサンダー・ユング (Alexander Ljung)の退任、経営陣の総入れ替え、資金調達と、深刻な経営難に直面したSoundCloudの運命は、好調にユーザー数を伸ばし続けるSpotifyやApple Musicと正反対な道を辿り、将来への不透明さを露呈した失敗の1年となってしまいました。

オススメ記事
SoundCloudに土壇場で救いの手――LjungはCEOから退く (TechCrunch Japan)

SoundCloudは経営難でも、まだ「終わっていない」──その唯一無二の存在感と影響力 (WIRED.jp)


そうした不安な経営を尻目に、SoundCloudクリエイターたちは「ローファイ・ヒップホップ」や「シンセウェーブ」といったSoundCloud特有のジャンルのファンに後押しされて、SpotifyやYouTubeとは全く違ったSoundCloud独特のコミュニティ性を高め自分たちの影響力を高めてきました。
 

SoundCloud artists


例えば、先日開催された第60回グラミー賞において、SoundCloudを活用するアーティスト8組がノミネーションされています。Lorde、Lil Uzi Vert、Mura Masa、ODESZA、Khalid、6lack、Kehlani、K.Flayの8組が音楽最大のアワードで評価を得るほど、SoundCloud発の良質なクリエイターの音楽カルチャー的影響力は強力になっています。
SoundCloudは、無名アーティストが知名度を上げるための登竜門から、アーティスト活動を継続し成長する場として認知されたい考えが、SoundCloud Premierを拡張することから伺えます。Premierプログラムを活性化させ、クリエイターコミュニティからの支持を高め、「マネタイズ」できるプラットフォームビジネスで、現在の音楽サービスの競争に参入しようということが考えられます。

SoundCloudは、初めてPremierを活用してきたSoundCloudアーティストの名前を明かしました。その名前だけを見れば、近年の音楽シーンにおける成功者ばかりが名を連ねていることが分かります。

チャンス・ザ・ラッパー(Chance the Rapper)をはじめ、Lil Yachty、Lil Uzi Vert、StarRo、Witt Lowry、Lorine Chia、The Cathedrals、Towkio、Kali Uchis、$UICIDEBOY$、Alina Baraz、Louis the Child、blackbear、MadeinTYO、Metro BoominなどがPremierユーザーであるとSoundCloudは名前を公開しています。

SoundCloud Premierクリエイターの実績を合わせると、音楽業界も無視できないほどの活躍を残しており、説得力はあります。

SoundCloudが公表したアワードノミネーションの例や、チャートインした作品の数を見れば、SoundCloud発のアーティストがいかに音楽シーンで高く評価され、人気を集めているかを知ることができます。
 

・グラミー賞ノミネーション:14アーティスト
・MTV ビデオミュージックアワードノミネーション:10アーティスト
・BRITアワードノミネーション:3アーティスト
・Billboard 200 アルバムチャート入り:41 アルバム
・Billboard 100 トラックチャート入り:122 トラック


つまり、SoundCloudには今もなお、音楽ビジネスの常識を覆すビジネスセンスと人気を持ち合わせたカルチャーアイコンやインフルエンサーと言ってもおかしくないアーティストやプロデューサー、DJたちが揃っていることを示しています。こうしたクリエイターを抱えていることは、彼らの後に続くPremierクリエイターは今後もSoundCloudから輩出されるという期待感が高まります。
 

SoundCloudの広告ビジネス


Premierクリエイターになれば、自分のコンテンツの中でどれをどの地域で再生できるか、オーディオ広告を付けるか、短いオーディオ・サンプルを他のコンテンツが流れる前に再生させるか、など細かい設定が可能になり、作品のプロモーションと広告収益を同時に実現することが容易になります。
 

SoundCloud Promoted


こうしたPremier機能で重要となってくるのが、SoundCloudの広告です。現在は、米国や欧州、オーストラリア、ニュージーランドでSoundCloudを再生した時に発生するため、日本では企業のロゴやオーディオ広告を体験することはありません。

SoundCloudが提供する広告プラットフォームは、オーディオ広告やディスプレイ広告が楽曲の間に入る以外に、ブランドプレイリスト、アーティストとのパートナーシップ、リミックスコンテストなども用意されています。

SoundCloudで広告を展開するブランドを挙げると、アマゾンやマイクロソフト、Netflix、スターバックス、レッドブル、HBO、ワーナー・ブラザースピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ、アシックスなどがSoundCloudをプロモーション用途に活用してきました。

SoundCloudは基本フリーで視聴ができます。海外では、広告を視聴中に消したり、オフラインでの視聴、フルカタログの視聴を可能にできる有料プラン「SoundCloud Go」と「SoundCloud Go+」がそれぞれ月額4.99ドル、9.99ドルで提供されています。

こうしたサブスクリプションと広告収益がSoundCloudの収益であり、ユーザーが欲しがるコンテンツを提供し続けるクリエイターに収益を分配していくシステムが既存のプラットフォームをより魅力的に変えていくためにできることはとてつもなく大きいはずです。

白熱する音楽ストリーミングの競争において、「チャンス・ザ・ラッパーやLil Yachty、Lil Uzi Vertが使っているSoundCloud」というブランドイメージは唯一無二で、この上ないPRになるはずです。

彼らは決してSoundCloud Premierに依存するわけではなく、選択肢の一つとして使う戦略を立てることが成功する上で重要になってきます。SpotifyやApple Music、グーグル/YouTube、アマゾンなど、音楽プラットフォームの併用はすでに実現可能な時代が始まっているのです。

感度の高い日本人クリエイターであれば、前述のクリエイターの名前を聞いただけで、音楽プロモーションやアーティスト活動のイメージが膨らむのではないでしょうか。

日本人アーティストの海外進出が騒がれて久しい昨今、海外でSoundCloudを活用するという選択肢の中に、SoundCloud Premierというプログラムが結果を生み出す可能性に繋がるかもしれません。
 

ソース
SoundCloud Premier helps you reach even more fans with new promotional opportunities (SoundCloud)
SoundCloud Expands Premier Creator Offerings With New Marketing & Promotional Opportunities (Billboard)
Congrats to all of the Grammy Award winners and nominees (SoundCloud)
The 2017 SoundCloud Playback (SoundCloud)
SoundCloudに土壇場で救いの手――LjungはCEOから退く (TechCrunch Japan)
SoundCloudは経営難でも、まだ「終わっていない」──その唯一無二の存在感と影響力 (WIRED.jp)

関連記事  YouTubeの定額制音楽配信「YouTube Music Key」がテスト期間の延長を発表。Spotifyやアップルに追いつけるのか?

jaykogami
記事提供All Digital Music

Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
プロフィール
Twitter
Facebook