INORAN、特別なアコースティックライブ 東京公演レポート

2019年1月23日 16:45
INORAN
写真:ヤマダマサヒロ

INORANが1月20日に東京・Billboard Live TOKYOにて「INORAN 2019 NEW YEAR PREMIUM ACOUSTIC LIVE」を開催した。

INORANにとって今年最初のライブは従来のバンドスタイルではなく「歌とアコースティックギターで自身の音楽性を表現する」という、新たな試みが行われたスペシャルな内容となった。東京公演のセットリストは、これまでの彼とは違ったアコースティックな一面に触れることができる、とても魅力的な内容だった。

「シンガーとして、やっと自分らしくステージに立てるようになった…」ライブ終了後の楽屋で、INORANは晴れ晴れした表情で、自身の想いを語った。

このアコースティックライブのルーツとなるのは、17年「SOLO 20TH ANNIVERSARY TOUR 2017-INTENSE/MELLOW-」で披露された、アコースティック編成による演奏セクション「Bar Mellow」である。Bar Mellowは、静と動の異なる音楽性をエレクトリックなINTENSE、アコースティックなMELLOWで描き出したセルフカバーベスト作「INTENSE/MELLOW」の世界観を、ライブで表現するためのものであったが、その演奏には普段のロックな激しさと異なるフォーキーな素朴さが宿っており、改めてINORANというミュージシャンの「奥深さ」に気付かされた。

INORAN自身も、このBar Mellowの演奏に確かな手応えを感じたようだ。17年ツアーの際、筆者は、ライブ後の楽屋で楽しそうにアコースティックギターを弾くINORANを目撃し、今もその光景が強く記憶に残っている。そう考えると、今回彼がアコースティック編成で、「INORAN 2019 NEW YEAR PREMIUM ACOUSTIC LIVE」を行ったことは、やはり必然だったのだろう。

アコースティックライブということで、今回はボーカルとアコースティックギターがINORAN、ピアノがTourbillonの「盟友」葉山拓亮、ヴァイオリンがYui、チェロが島津由美という、普段のバンドとは異なるアンサンブル編成になった。

ファンにとっては「従来のバンド編成と今回のアンサンブルでは、どれだけサウンドが変わったのか?」が、非常に興味のあるテーマだろう。これは、筆者の個人的な見解ではあるが、14年リリースのミニアルバム「Somewhere」のバラード「Sakura」は、今回のサウンドイメージが上手く表現されている曲だと思う。

ライブでも「Sakura」は披露されたが、色彩豊かな鍵盤の音色、情緒的なストリングスのコントラストが描き出す柔らかで、温かみのあるサウンドは、間違いなく本アンサンブルの核といえるものだった。

冬の寒さが一段と厳しさを増す大寒の始まりが嘘のように、1月20日のライブ会場がある六本木は、日中の最高気温が13度と暖かな陽気だった。会場には満員のオーディエンスが集結し、ビルボードのお洒落なカクテルや絶品な料理を楽しみながら、リラックスしたムードで会話を弾ませていた。

開演時間になり、ステージに葉山、Yui、島津、アコースティックギターを手にしたINORANが登場すると、オーディエンスから一際大きな歓声が起こる。オープニングナンバーに選ばれたのは、「BEAUTIFUL NOW」のタイトル曲「Beautiful Now」だ。

この曲は、普段のバンド編成だと開放的で力強いサウンドを宿しているが、今回は葉山のリリカルな鍵盤のハーモニー、Yuiと島津の優雅なストリングスが加わることで、ソフィスティケートされた優しい雰囲気になり、曲の表情がガラリと変わっていた。

INORANは、愛用のマーティンD-28をストロークしながら、会場の観客を笑顔で見つめ、ありったけの感情を込めて歌う。

その後、披露された人気曲「千年花」では、INORANがギターを背中に回して、ステージ中央にあるマイクを手に取り、さらに力強くエモーショナルなボーカルを披露し、観客をグッと曲の世界観に引き込んでいく。この日の彼の歌力は圧巻で、表現力、声量、グルーヴの全てにおいて、筆者がそれまでに抱いていたボーカリストとしてのINORANのイメージを軽く超え、実に堂々としたものだった。

ライブでボーカリストとしての自分を、ここまでストイックに表現する彼の姿を見たのは、これが初めてかもしれない…。

MCで、INORANは「ギターを始めてから30年とか凄い年月が経つけど、その中でバンドを始めて、自分のとなりにはRYUICHIという凄いボーカリストがいた。バンドが終幕した時に、自分で歌うってことで俺のボーカルは始まったんだ。続けることは大切で、あれから20年以上が経った今、こうして素晴らしいミュージシャンが演奏してきたビルボードにボーカリストとして立つ勇気というか、自信が湧きました。そう思うと少し感極まっています」と語る。

セットリストは一新され、現在のINORANの音楽性を語るのに重要な「Beautiful Now」「Sakura」「Shine for me tonight」「Thank you」という、強力なナンバーが前半、中盤、後半の重要な位置を占める。ミディアムテンポとスローテンポの曲を中心にセットリストが組まれているのも、INORANの歌と優美なこのアンサンブルを楽しむのには、ベストなチョイスだと思う。

また「I swear」「I'll be there」「Come closer」という、近年の英語詞とは異なった、日本語によるポジティブな歌詞のメッセージが印象的な楽曲が披露されたが、こういった優しい雰囲気もINORANらしい音楽性であるし、どの曲でも彼らしいオリジナルなメロディセンスがキラリと光る。

その中でも、特に強く印象に残ったのが「I swear」だ。この曲は、ソロ10周年記念のベストアルバム「THE BEST」のラストを飾る曲で、「舞い落ちる刹那は悲しみを溶かし流す静寂の中〜」という情緒的な歌詞が印象的なナンバーだ。そんなの歌詞の世界観を活かす、葉山の鍵盤とストリングスのアレンジセンスが秀逸で、ライブでもボーカル、ピアノ、ストリングスのハーモニーが見事に調和し絶品だった。

その後、MCでINORANが「俺がこんなに歌ったら、皆ドン引きするよね(笑)。でも、ビルボードという素晴らしい場所で演奏する機会に恵まれたことに本当に感謝しています」「今年は本当に色々なことがあると思う。普段何気なく生活して、ギターを弾いて、曲を作るという、日常の全てがとても尊いものだなって。それでも、今日こうして会えたし、せっかくだから皆も美味しいお酒を飲んで、最高な時間を過ごしてください。次はカバーをやります」と語り、Mr.Childrenのバラード「車の中でかくれてキスしよう」を披露。この予想外な曲のチョイスに、会場のファンから大きなどよめきが起こった。

このカバーについてINORANに尋ねると、「理由はね、ちょっと言えないくらい思い入れがあるんだよ(笑)。ミスチルの桜井さんは本当に尊敬するシンガー。そして、RYUICHIもそうだし、FAKE?で一緒だったKEN LLOYDもそうだし、今まで本当に素晴らしいシンガーに巡り合った。そういう彼らを見てきたから、最初の頃は自分のボーカルなんて、もう彼らの足元にも及ばないって思っていたけど(笑)、そんな自分でも続ける中で今やっとビルボードで歌いたいと思えるようになった。そういう意味を込めたのかもしれないね」と、コメントしてくれた。そういった曲とアーティストへの深いリスペクトを込めて、INORANはこの日のライブで「車の中でかくれてキスしよう」を、彼らしいグルーヴと抑揚をつけて丁寧に歌いあげた。

終盤のMCでは、葉山と息の合ったトークを披露するINORAN。その中で、「RYUICHIと話をしたけど元気そうだったよ。彼らしい回復力で元気になると思うから、またTourbillonの3人でツアーをしたいね」と語り、1月11日に肺腺がんの手術を受けた、もう一人の「盟友」RYUICHIにエールを送り、またの再会をステージで誓い合った。

ライブ終盤は、「後半戦は参加型でお願いします」とオーディエンスに語りかけ、「Come closer」では手拍子とシンガロングを求め、次第に強さを増していく観客の反応を嬉しそうに眺めながら、より想いを込めて情熱的に歌い上げる。その盛り上がりがピークとなった、ラスト「Thank you」の熱を帯びた会場の一体感は、ライブの大きなハイライトとなった。

ライブ終了後にメンバー紹介をしたINORANは、「本当に素晴らしい時間をありがとう。今日演奏して、またこのビルボードというステージに立ちたいと思いました。また会いましょう!」とオーディエンスにメッセージを残し、会場を後にした。

INORANのボーカリストとしての実力が遺憾無く発揮された、「INORAN 2019 NEW YEAR PREMIUM ACOUSTIC LIVE」。東京公演のセットリストは、これまでの彼とは違ったアコースティックな一面に触れることができる、とても魅力的な内容だった。2月1日のビルボード大阪では、今回と異なる曲を重要な場所に置くということなので、大阪公演も、ここでしか見られないスペシャルなライブになるのは間違いない。

そして、この「INORAN 2019 NEW YEAR PREMIUM ACOUSTIC LIVE」を終えた3月から、INORANはいよいよ、今年夏に完成予定のニューアルバムのレコーディングをスタートさせる。

18年の充実したツアーを経て、さらに磨き込まれたロックな初期衝動、そして今回のアコースティックライブで垣間見えた、シンガーソングライターとしての素晴らしい“歌心”。INORANのワンアンドオンリーな音楽性は、今後も更なる深化を続けていく…。次の新作で、彼がどんなサウンドを我々に届けてくれるのか、今からとても楽しみで仕方ない。

取材・文:細江高広