Musicman-NET TOPSPECIAL REPORT & INTERVIEW Kenji Nakai氏インタビュー
Musicman-NET SPECIAL REPORT Kenji Nakai氏

Kenji Nakai氏写真
Kenji Nakai氏

>> Kenji Nakai氏のディスコグラフィー
 国内でレコーディング・エンジニアとして6年間の活動後、'90年に渡米。以降、ロサンゼルスを拠点に活動されるKenji Nakai氏。レッド・ホット・チリペッパーズ、トム・ペティ、チープ・トリック、ボズ・スキャッグス、セリーヌ・ディオン、トム・スコット、Chara、福山雅治、アンジェラ・アキなど、国内外を問わず多くの著名アーティストのプロジェクトに参加。コンサート・ミキシングやマルチ・チャンネル作品、ゲーム音楽などの制作にも積極的に取り組まれています。日米両国の現場を知るKenji Nakai氏に、アメリカの音楽制作事情や、ご自身の活動について伺いました。
[2006.11.17 世田谷区代田 サウンドアトリエにて]

【INDEX】
 ▼1.エンジニアの真の力量とは
 ▼2.すべては模倣から始まる
 ▼3.音楽を聴くことの重要性
 ▼4.ゲーム音楽の可能性

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Sonic Lodge Studio
2042 N Beachwood Dr. #14
Los Angeles, CA 90068-3413
mixkenji@sbcglobal.net

1.エンジニアの真の力量とは

--Nakaiさんは日米のスタジオの状況を両方ご理解されていると思われるのですが、まず一番の違いは何ですか?

Kenji Nakai氏写真 Nakai:まず、チーフ・エンジニアの概念が違います。アメリカの場合、チーフ・エンジニアというのは基本的にメンテナンス・エンジニアなので、スタジオに所属しているいわゆるアシスタント以外のエンジニアはいません。要するにチーフ・エンジニアがメンテナンス・エンジニアで、その下に何人かアシスタント・メンテナンス・エンジニアがいるわけです。僕がよく使うウエストレイク・スタジオだと、メンテナンス・エンジニアは4人くらいいます。それ以外は全員アシスタントです。ただ、アシスタントでも自分で仕事を持ってきて、スタジオをブッキングしてエンジニアをやっていたりする人もいますが、レコーディング・スタジオが1st エンジニアをマネージメントすることはほとんどありません。

--つまりアメリカにおけるレコーディング・エンジニアとは基本的にフリーランスの商売であるということですか?

Nakai:そうです。フリーランス、ないしはマネージメントを持ってやる仕事であって、スタジオに1st エンジニアは所属しません。ただ、その構図の中で大切なのはメンテナンス・エンジニアがいわゆる技術屋さんではなくて、レコーディングも分かっているということです。だから、僕もアシスタントとして最初に仕事をしたスタジオはオーシャンウェイというスタジオなんですが、先輩エンジニアに学ぶのではなくて、そのメンテナンス・エンジニアに機材のこととかを学びました。日本ではまだチーフ・エンジニアがいて、1stエンジニアがいて、みたいな構図があると聞いていますが、それはチーフ・エンジニアにとっては恵まれている環境だなという気がしますね。そこが大きな違いだと思います。

--給料をもらえている、もらえていないという話ですね。

Nakai:アシスタントをやらずして給料をもらっている人はいませんし、アシスタントも正社員ではあるんですが、基本的には時給制です。つまり、売れ高と言うか、やったらやっただけもらえるということです。また、アメリカでは給与体系がしっかりしていて、労働に関する法律も厳しいので、ちゃんとしたスタジオでは8時間の基本給に対して、8時間以降12時間までは基本給の1.5倍、12時間以降は2倍の時給が支払われています。ですから、スタジオとしてもオーバータイムするとそこにそれだけお金がかかってくるので、クライアントにもオーバータイムをきちんと請求しますし、クライアントも文句は言いません。僕がいた頃の日本はその辺がうやむやでしたからね。

--今はもっと混沌としていますよ。

Nakai:これは良いことかどうか分かりませんが、アメリカだとアシスタントがいつの間にかスタジオから勝手にいなくなるんですよ。

--それはどういうことですか?

Nakai:大きなスコアリングのようなレコーディングは別にして、通常のレコーディングは1stエンジニアがProToolsもテレコも回します。3348だった頃は僕も自分で回しながら録りをしました。ですから、セットアップが終わるとアシスタントはいらなくなるんですよ。本当はそこで後ろから見ていて、どういうことをやるかを勉強しないといけないのですが、中にはそうじゃない人もたくさんいて、事務所でお茶や食事をしていたりすることがあります(笑)。

--アシスタントエンジニアの質ということであれば、日本人の方が勤勉ですか?

Nakai:そうだと思います。日本だとアシスタントにテレコを回してもらえるので、1stエンジニアをするのが楽です。ただ、僕が日本でリズム録りをする時には、自分で回すようにしています。アメリカではアシスタントがテレコを回して失敗したのは、それを許可した1stエンジニアの責任なんですね。スタジオの中で技術的な問題が何か起きたら、卓が壊れたとかは別ですが、基本的に1stエンジニアの責任です。そういう命令体系がはっきりしています。
 リズム録りのときにはテレコを回すタイミングや、セッションの進め方が凄く重要です。だから僕がやらせてもらうときには自分で回しますし、プロデューサーも大体進行を任せてくれるんですね。最近では日本でもあるかもしれませんが、向こうではプロデューサーがいなくてもセッションを、エンジニアが進行させることが多いです。そうなると、言葉の使い方や曲によって進行の仕方を変えたりとか、そういう部分が重要になってきますし、それが分からないとなかなか大きな仕事は任せてもらえません。


--そこがエンジニアの力量になってくるのかもしれませんね。スタジオを仕切る能力というか。

Nakai:そうですね。よく「スタジオの空気を読んで、空気を変えて、空気を流していく」と言われるんですが、凄く重要だと思います。そこに興味を持って追求していくエンジニアは、その先プロデューサーの道に進んでいくと思います。それができないと頭打ちになってしまいます。プロデューサーは当然プロデュースのことが分かるエンジニアを雇いたいんですよ。冗談半分でよく言うのが、「現場でプロデューサーをプロデュースできるエンジニアじゃないといけない」と。

--サウンド面のクリエイトだけではなく、コミュニケーションのプロデュースもできないといけない。

Kenji Nakai氏写真 Nakai:その部分の方がひょっとしたら大事かもしれないですね。というか、音なんて良いのは当たり前だという世界なんですね。ちゃんとしたプロジェクトになると、録っているときから落とし(TD)の音をしていないと仕事が来ないんです。つまり、後で手を加えるというのは基本的にナシなんです。特にドラムやリズムを録っているときは、これで歌を載せたら、楽器の数は少ないにせよ、それで完成するくらいのクオリティでないといけないんです。だから、自宅にスタジオを持ってるプロデューサーやアレンジャーでも、ちゃんとしたものを録るときは、必ず自分が信頼を置いているエンジニアを指名します。例えそのことによってバジェットがタイトになっても、そこは必ずやりますね。

--ミュージシャンに関してはどうですか?

Nakai:やはり上手い人は多いし、層も厚いと思います。でも、いつも驚かされるのは、仕事への姿勢です。向こうだとスタジオ入りの時間ではなく、レコーディング開始時間でブッキングされます。ミュージシャンは、その時間までにセット・アップが全て終了していますし、ギャラのカウントは、それから始まります。なので、ほとんどのミュージシャンが少なくともブッキングされた時間の30〜40分前にはスタジオ入りしています。セッションの10分前に入って「あぁ、間に合った。」ということはまずあり得ません。また一流のミュージシャンでも機材の運搬は、そういう会社に頼んでもセット・アップは自分自身でやります。それともう一つ驚かされたのは、練習を欠かさないということです。以前、売れっ子ギタリストのマイケル・ランド−と仕事した時のことですが、スタジオでミックスが仕上がる間中、食事する時以外はずっとギターを手に練習をしていましたし、ベテラン・サックス奏者のトム・スコットとツアーに出た時は、彼は、夜のライブに備え、昼間、ライブ・ハウスに行って一人だけで練習していました。やっぱり世界の一流であることをキープするということは並大抵なことではないということを思い知らされました。


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