Musicman-NET SPECIAL REPORT Kenji Nakai氏

2.すべては模倣から始まる

--機材面に関してはどうですか?

Nakai:スタジオに関してはやはりProToolsがメインです。アナログを使うプロジェクトもあるにはありますが、非常にまれですね。ただ、キャピトルやオーシャンウェイ、ウエストレイクといった大きいスタジオに行けばアナログのテレコは普通に使えるので、全然珍しくはありません。

--ハーフインチも使いますか?

Nakai:人によっては使いますね。ロック系のものだと使うケースが多いです。面白いんですがアル・シュミットとかは、サラウンドものの時は、アナログで録って、2インチの8トラックをマスターにしているんですね。これって僕は重要なことだと思うんですが、音素材というのは音楽的・文化的財産なんです。大げさな言い方になりますが、それを後世に残しておくということも、レコード会社やエンジニアにとして社会的な責任があると思うんですよ。だから、バジェットとの兼ね合いは必ずあるんですが、その中でできる限りハイクオリティのものでマスターを残していくというのは、我々の責任だと思うんです。アル・シュミットみたいな人がそういったところに気を遣っているのは、非常に励みになりますし、エンジニアとしての社会的な責任をよく考えていると感じます。

--アメリカではプロになった後の方が勉強が大変だとよく聞きますね。一線にいる人たちは皆勉強家で、だから歳を取っても新しいテクノロジーに精通しているし、65才を超えてもなお現役であると。

Nakai:アメリカのエンジニアとしての職業寿命は日本よりも長いと思います。アメリカはシビアで、新しいテクノロジーが分からなかったら、分かる人を雇います。ただそれだけの話で、そのために絶えず勉強しなくてはいけないと。むしろアメリカではベテランの人たちが新しいテクノロジーをいち早く取り入れて、メーカーから、時にはエンジニアからアプローチして新技術の開発に積極的に関わります。
 コンベンションに行っても、偉い人たちがずらっと並んで、我々が聞いたこともないような未来の話をしたりするのは勉強になりますし、向こうが負けていられないのと同じで、僕も負けていられないので頑張りますよね。もちろん、若い人たちも頑張っています。つまりトップの人たちが勉強するスピードが遅ければ、その下の人も勉強しなくなると思うんですが、現実はそのスピードがとても速いですし、上の方はどんどん高く昇っていくので、僕らもそれについて行かなくてはなりません。


--日本にいるときよりも競争の厳しさは感じますか? サバイバルしていく緊張感といいますか。

Nakai:そうですね。やっていることは同じなんでしょうけど、アメリカでは僕くらいの層って滅茶苦茶厚いんです。今はその中堅層における競争にどうにかひっかかっているので、そこから脱落しないように、もしくは人より一歩でも前に行けるように自分を磨くしかないと思っています。
 僕はアメリカに行って一番良かったなと思うことがあって、それは一流のエンジニア、プロデューサーの人たちのアシスタントをずっとやれたことです。要するにできあがったものを見るんじゃなくて、アーティストとのやりとりやツマミの回し方も含めて、その過程を学べたので、それは良かったなと今でも思います。


--アシスタントは何年くらいされていたんですか?

Kenji Nakai氏写真 Nakai:日本も入れると10年間アシスタントをやりました。芸術というと大げさかもしれませんが、レコーディング・エンジニアリングやミキシングが芸術だとしたら、芸術は模倣から始まると思っています。色々な人を模倣して、その人の一部を取り込みながら自分の好きなスタイルを作り上げていくものだと思っています。ということは、そういう人たちのクオリティが高くて、しかも彼らとの仕事の機会が多ければ多いほど、自分も磨かれるし、引き出しの数も増えると思うんですね。
 今はProToolsの一式を買ってしまえば、「あなたも明日からレコーディング・エンジニア」という時代になって、エンジニアになりたい人たちは以前よりもプレッシャーというか苦労は少ないと思うんですが、色々な意味で学んでいないと思うんです。「サンレコ」や「プロサウンド」から学べることは限られているので、やはり今良いとされている、もしくはベテランでずっと残っている人たちの芸を盗むというのが、僕はエンジニアリングの基本だと思うんです。そこからスタイルというのは自ずと生まれてきます。


--やはり現場にいることが一番であると。

Nakai:一番最初にオーシャンウェイで与えられた仕事のセッションが、デヴィッド・フォスターとバーバラ・ストライサンドでした。そのときに「やっぱりこの人たちは凄いな」と感じました。そのあとにライ・クーダーやジム・ケルトナーの仕事が入って、2つ目のスタジオへ移ったときに最初にやったのがチープ・トリックで、テッド・テンプルマンという大変有名なプロデューサーがいるんですが、彼のセッションのアシスタントをやったり、そういうところから学ぶことは非常に多かったです。ですから、若い人たちもそういう現場に出て経験をどんどん積んでいった方が良いと思っています。

--それは日本のエンジニアに対してですか?

Nakai:そうですね。何でもインスタントに考えず、少しずつ経験の中から学んで行くということも知って欲しいと思います。不思議に感じるかもしれませんが、アメリカの方がまだ良い意味での徒弟制度が存続してます。コップが飛んでくるような徒弟制度ではなくて(笑)。

Kenji Nakai氏写真 --アメリカの方がそういう雰囲気が残っている?

Nakai:色濃く残っていると思います。中には一流のエンジニアの人の門を叩いて、弟子入りという人たちもいるみたいです。そして、その人の芸を盗むと。

--スピリチュアルな部分まで継承されている。

Nakai:時間がかかるとは思うんです。だからこそ、インスタントな考え方をしてはいけないなと思います。

--「急がば廻れ」ですね。

Nakai:そうですね。この仕事を始めて約20年ですけども、やっとレコーディングの仕方が少しだけ分かってきたかなという感じがします。これから自分のスタイルが見つかればいいかなと思っています。


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