
--まず今回のレーベル立ち上げまでの経緯を教えていただけませんか。
高垣: ビクターの中でADルーム(旧:A&R開発室)っていう新人発掘育成のセクションがあるんですが、僕も関わっているんですけど、今オーディションを5種類ほどやっているんですよ。ライブバンドのオーディションから、インターネット上の楽曲のオーディション、女性シンガーボーカリスト、大学のサークルとジョイントしたオーディション……と、ジャンル的にも幅広いんですが、優秀なアーティスト、新人バンドもそこからたくさん出てくるんですよ。今、かなり優秀な勝ち残り新人アーティストが50数組いるんですよ。それ以外にも、デモテープを聴いたりライブを見に行ったりする中で、すごくいいアーティストが世の中に一杯いるわけです。にもかかわらず、現実にメジャーデビューできていないアーティストがたくさんいるんですよね。そこに疑問を感じながら今までやってきたわけなんですが、考えてみたらメジャーデビューするためのルールというか基準をこっちが作っているんですよね。それと同時にメーカー側のキャパシティの問題もあったりするんです。スピードスターでもデビューできるのは、だいたい年に2組ぐらいですよね。いくらオーディションで勝ち残っても、たとえばその基準の中に「年齢がいっちゃっている」とか「ルックスが悪い」とか「華がない」とか「音楽的に今風じゃない」とかもしくは「プロダクションが合わない」とか、そういう本来の音楽じゃない理由でメジャーデビューできないアーティストがいっぱいいるわけです。
--レーベルのカラーというのは実際にありますからね。
高垣:
メジャーデビューできるっていうのは、アーティストが『いい』とか『悪い』ではなくて、タイミングと会社のスタッフとの相性なんですよね。そんな理由で才能があるアーティストが埋もれていくのは、もったいないなと実感していたんですよ。そんな現状もあって、新たにデビューするきっかけになる場所を作りたいなと思ったのが事の発端ですね。
--新たにデビューできる場所を提供したいというわけですね。
高垣:そうですね。スピードスターや既存のレーベルではどうしても規模も大きくなってるし、そんなに簡単に『ルール』を曲げるわけにはいかない。だったら、そういう目的で新レーベルを作った方が手っ取り早いなって思ったんですよ。今年に入って、そういう話をずっとA&R開発の久保田君っていうマネージャーや寺田君と繰り返しながら今に至ってるんです。
--現実的に大手メーカーのオーディションには受かっても「育成中」という名の下に何年も飼い殺しで置かれているアーティストっていうのはいっぱいいると思うんですよね。
高垣:受かった以上、他に移るわけにもいかなくて、何年もくすぶったりしていて、もったいないですよね。
--それが少し風通しがよくなるっていうことにつながりますか。
高垣: そうですね。そうありたいですね。なぜ、メジャーデビューできなかったのか不思議だなっていうアーティストがほんとに世の中にいっぱいいるような気がするんですよね。
--ということは、才能さえあれば、少なくとも今の日本のメジャーレーベルの中で、最もデビューしやすいレーベルだといっていいのでしょうか?
高垣:そうですね。そういうふうに言ってもらっていいですね。
--ルックスだの年齢だのそういう要素は一切関係なく音楽そのもので評価するというのは、理想ですよね。契約については、1ショットでの契約だそうですね。
高垣:そうですね。ただ、僕はスピードスターでずっと仕事をしてきたから、スピードスターのやり方やルールっていうのは当然体に染みついているわけで、かたや、BabeStarを立ち上げて新しいことをしようとしている自分がいて、今、自分の中で闘っているみたいなところがありますよね。それは全然違うキャラクターが自分の中で2人いるような感じで、すごく面白いですよ。たとえば、BabeStarの第一弾アーティストである大阪のANATAKIKOUっていうグループは、すごくいいバンドだけど今のスピードスターだとちょっとなぁっていう、既成のアーティストとバッティングするし、プロモーションのやり方も煮詰まっちゃうし、セールストークも言いにくい部分があるんですが、BabeStarに持ってきたら、いくらでもプロモーションできるみたいな部分はありますよね。同じアーティストでもスピードスターとして見たときのとらえ方と、BabeStarとしてのとらえ方とで全然違って見えてきますよね。
--スピードスターとの関連性はどうなんでしょうか?
高垣:スピードスターのジュニアみたいなイメージがあると思うんですけど、組織的には全く切り離して独立レーベルとしてやっていくことになっています。
--寺田さんが兼任ということですが、スタッフ的に専任というのは設けられるんでしょうか。
高垣:テーラー(寺田)は兼任といっても専任に近い立場なんですよ。寺田がいて、A&Rスタッフが2名、プロモーションが2名、デスク兼ウェブ関係が1名、ADルームの中に、このレーベルを立ち上げたってことになりますね。
--レーベルのスタートはいつなんでしょうか?
高垣:今月(10月11日)からスタートします。当然必要に応じて大きくしていきたいですけど、最初はできるだけミニマムでスタートしたいと思ってますね。スピードスターも最初はそうでしたからね。気がついたら今は40人になっちゃってますけどね。
--人選などの具体的な話はいつ頃から始まったんでしょうか?
高垣:
去年の秋ぐらいですね。BabeStarを始めるにあたって、具体的なお金のことを経理のスタッフに相談したり、コストの相談を始めたのは今年に入ってからですね。
--そのときの社内の反応はどうでしたか?
高垣:みんな理解して、協力してくれたので、思ったよりスムーズにまとまりましたよ。
2,000円フルアルバムがメインアイテム。
選ぶ権利はリスナーにあるという発想。
--BabeStarではCD価格を新たに見直す、ということなんですが、これはどういうことでしょうか?
高垣:これはiPodから得た発想なんですよ。ある日突然僕の友達がiPodにハマったんですよ。僕は人がはまっているのを見ると欲しくなるっていう性格なんでね(笑)、今年の3月ぐらいにiPodを買ったんですよ。そしたら、一気にハマりましたね〜(笑)。それまでMDウォークマン、CDウォークマンを山のようにたくさん買ってきたんですが、全部人にあげたぐらいですから。一万曲入ってるわけだから、どこにいようが冬だろうが夏だろうが、これ一発あればO.Kで、しかもダウンロードまで簡単でタイトルまで入れられて…もう魔法だよね(笑)。それぐらいびっくりしたんですよ。なんでこんなにハマるのかなと思ったら、CD一枚、MD一枚でしか聞けないものじゃなくて、リスナーが自分で全て選べるわけですよ。選べるから流行っているわけで、この『選べる』っていうのが大事なんだなって思ったわけです。従来は我々のような優秀なA&Rマンがいて(笑)、すごくいい新人をピックアップして、1つだけ見つけだして、時間とお金と労力を目一杯注ぎ込んで、一年以上の時間もかけて作品を作って、「どうですか?」と世に問うていたわけです。つまり、決定権はあくまでメーカーなり制作者側にあって、制作者が一つだけ選んで決めて、それをリスナーに提供してきましたよね。これからはそうじゃなくて、決めるのは『リスナー』じゃないかな、っていうのがiPodを買った僕の学習なわけです。『少数精鋭』っていうのは言葉は綺麗だけど、ひょっとしたら今に合わなくなってきてるんじゃないかな、という気がしてきたんですよね。
--選ぶ権利をリスナーに与える、ということですね。
高垣:そうです。僕は少数精鋭のレーベルを今までずっとやってきたつもりなんですが、ここでちょっと一回振り返って、『多数良質』のレーベルを作るっていうのも一つありかな、と思ったんです。『多数良質』って言葉があるかどうかわからないけど、これからの時代は、リスナーが選ぶ幅を持つ、言いかえれば、選択肢をリスナーに預けるっていうことなんじゃないかなって思ったんですよね。多数良質イコール粗製濫造にならないようにね。もしかすると、粗製濫造と多数良質はひょっとしたら同じかもしれない、しかし、それを決めるのはリスナーなのではないか?と。その辺はこれまでのキャリアと経験実績みたいなものをうまく使って、できるだけ多数、できるだけ良質なものを送り出すようなレーベルにしたい、と思っているんです。
--2,000円のフルアルバムということは、今までのメジャーものとは明らかに違いますよね。
高垣:正直言って、今回の2000円というのは、もろもろのCDが世に出るまでのありとあらゆる経費というのを見直していったんですよ。社内社外の関係者にこのレーベルの趣旨、今後の可能性みたいなものを説いてまわったんです。その結果、2000円でもできる、ということになったんです。
当然一枚のアルバムが世に出るまで、色んな費用と人手がかかりますよね。制作費、宣伝費、販促費、それからジャケット制作だったり、工場のプレス費、そして流通コストがある。今、3,000円前後のフルアルバムが一つの定番になってるのは、いいところと悪いところの両方あって、やはり価格っていうのは印税に反映してくるから、そんなに簡単に価格を安くするわけにはいかないし、取り巻く環境が許さないわけですよ。新レーベルだから可能になったというのはありますよね。
--削れる部分を全て削ったら、できた、と。
高垣:これは、みんな考えていたけど、なかなかやりたくてもできなかったことかもしれないですね。もちろん、全て2,000円っていうわけにはいかないんですが、メインのアイテムはフルアルバム2,000円でいきます。
--宣伝に関しての制約などはでてきますよね。
高垣:もちろん制約は色々ありますよ。例えば、初回オーダーのみだったり、最初から全国展開で従来のやり方でCDを全国に展開してということはあまり考えられないですね。やっぱり局地的な宣伝だったり営業だったりすると思います。そこをどれだけ効率を高くしていくかっていうのが問題ですね。当然インディーズに近い規模でスタートすると思うので、1000枚未満から立ち上がる作品も多いと思いますよ。1,000枚未満だったら、東京と大阪だけでいいかもしれないし、ひょっとしたら出身地だけでいいかもしれないし、ディーラーもそれにふさわしいディーラーだけでいいと思うんですよ。そういうふうに考えていくと、今までのような全国展開に使っているお金を削ることは可能だったりしますよね。
--たとえば大阪限定、とか。
高垣:そうですね。最近は特に地方のイベンターと話をしていると、地方分権を考えなくちゃいけないと思うんですよね。東京をないがしろにするっていうんではなくて。
話はそれちゃうんですが、今、斉藤和義君が宇都宮限定で1曲限定のシングルを出したんですよ。斉藤君は栃木県宇都宮市出身なんですが、昔、学生時代に馴染みのある街の通りだっていう「オリオン通り」について歌ったので、僕らとしては軽い気持ちで宇都宮限定でインディーズで出したんですよ。それが、8月頭に出して今、3,000枚ぐらい出てるんですよ。宇都宮で3,000枚っていうのは、全国規模に換算すると、200万枚なんですよ。
--うわー。それはすごいですねー。
高垣:本当にびっくりしましたよ。担当は本屋だ、時計屋だ、乾物屋だとかにも売って、男の子たった一人で走り回ってやっちゃってるわけですよ。すごいですよね。
--ビクターというメジャーレーベルがこれまでの価格の2/3だって言っちゃうわけですよね。これは将来、社内の既存のレーベルも含めて色々なところに影響を与える可能性もありますよね。
高垣:僕としては影響が出るくらいになりたいですね。それがスタンダードになればそれに越したことはないと思うし、そのためにやる部分もあると思います。
--今までもビクターにインディーズレーベルがあったわけで、その中間的な形を作り出したって感じですかね。メジャー流通だけど、もっとスタンスの軽いやり方を開始する、と受け取っていいんでしょうか。
高垣:そうですね。メジャーとインディーズのいいとこ取りみたいなイメージもあるんじゃないかと思ってます。
今、インディーレーベルが日本に300以上存在して、そこのフルアルバムがだいたい2,000円から2,500円じゃないですか。それからメジャーアルバムの収録曲は、14曲〜16曲というのが当たり前になってますよね。僕はそこまでする必要はないと思うし、時間と曲数をもう一回見直していく必要があると思っているんです。
--これまで、インディーズレーベルがメジャーの横で価格破壊をやってきたと思うんですよね。メジャーレーベルがこの値段で出すというのは、画期的なんじゃないでしょうか。
高垣:今の輸入盤の値段を見ると、だいたいそれくらいの値段ですよ。色々見ていて、音楽のアルバム2,000円というのは、かなりいい線なんじゃないかな、と僕は思ってるんですけどね。2,000円という価格は、リスナーが「パッケージ」として買いやすい値段じゃないかなと思っていますね。
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