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CDが売れまくった90年代から、音楽業界全体が「あがいている」今の状況になったわけ
佐藤氏11 --佐藤さんから見て、in the cityが始まった6年前と今とでは、音楽業界というのはどんなふうに変わっていってると認識されてますか?

佐藤:まず90年代に入って、日本の経済の全般がバブルがはじけて厳しくなったのとは別に、音楽業界としては、88年から99年ぐらいにアナログレコードからCDに全部切り替わった頃ですよね。いわば90年代というのは、ものすごくCDが売れた時代なんですよ。各社からミリオンセラーがたくさん出て、レコード協会のまとめた数字が総トータルの売り上げで6000億円を越えたってぐらいでしたから。20年前の約2倍の規模になったと言われた頃でしたよね。そんな背景もあって、いろんな複合的要素があってCDが売れたんだけど、総トータルで売れてるというわりに、数少ないミリオンセラーが全体を引っ張っていってるだけで、内実は、かなり危ないものでしたよ。それから、誠実にいい音楽を作っているアーティストが、ちょっと活動しにくくなったというのが90年代だったと僕は思うんです。一方、裏方の部分で言えば、当時から音楽業界の華やかなところを支えているローディーさんとか舞台コンサート周りをやってるような機材関係のスタッフの年齢がだんだんと高齢化してきた。と同時に、スタジオのブッキングも厳しくなって、バブル時代に作ったスタジオなんかはどんどん経営が難しくなっていきましたよね。よりスモール化して低予算で対応できるような小回りのきくスタジオじゃないと、なかなかやっていけなくなった。でも、そういった危機的状況が忍び寄っているということは、音楽業界の中枢で働く人たちはみんなわかってたと思うんです。

--しかし表面上ではまだ…。

佐藤:あまりそういう危機感は感じていなかったんですよね。いわゆる一番派手な部分…表側やアーティストに一番近いところは、全く危機感がなかった。振り返ってみて、それが『90年代』だったと思うんです。

--その通りですね。

佐藤:結果的に2000年に入った辺りから、ここ3、4年CDの売り上げが激減しているとか、経済的な意味で業界全体がかなり構造的に厳しい渦の中に入っていって、今はまさに音楽業界全体が「あがいている」という状況だと僕は思うんです。今思えば、6年前というのは20世紀の終わりで、音楽業界にCDバブルがあったギリギリ余韻の最後の部分だったと思うんですよ。『一元的な』アーティスト作りというのが、まだ牧歌的に信じられていた時期にin the cityは始まったわけですよね。

--たしかに牧歌的に信じていましたね(笑)。

佐藤:やっぱりそのときに最初のin the cityのテーマだった、『アンサインド・アーティスト』を契約に持っていくという場を作るっていうことでいうと、現在の状況でいえば、逆なんじゃないかと。つまり、ここ数年、大手のレコード会社の産業構造・システムからこぼれたところで自分たちが立ち上がって色んな事を始めていくという形で、インディーの中からどんどん新しいアーティストが出てくるようになりましたよね。しかも、音楽を本当に楽しむ上での『リスナー』や『ユーザー』という2つの種類の人たちがインディーから出てくるアーティストを発見して、その中から5万10万50万100万と売れるアーティストが出てくるわけですよ。どんどん自分たちで手作りで作って売って、というやり方でビッグヒットやロングセラーが生まれれてくるような状況になってきたんです。プロの音楽業界人を経過しなくたって、ストレートかつダイレクトにリスナーや観客に届くということがどんどん進んできて、この数年の間に、ある種『二元構造』になってきましたよね。

--この6年で状況が逆転したってことなんでしょうか。

佐藤:ある意味そういうことかもしれませんね。逆にいいアーティストで、キャリアもあるんだけども、売り上げの枚数でいえば2万をきったとか、1万までいかないということで、メジャーから契約をきられるアーティストがどんどん増えてきましたよね。僕は、そういったアーティスト達の活動の場を用意したほうが、音制連としては会員各社やアーティストの皆さんに寄与できるんじゃないかと考えたわけなんです。

「J-STANDARD。」の誕生
佐藤氏3 --ここらで本来のコンセプトに向かって軌道修正をしなければ、いけないんじゃないか、と。そういうわけですね。

佐藤:はい。方向性としては、結果的にスタンダードになるようなもの、つまり息が長いものを作っている、というのが、どっちかといえば我々の寄って立つ一番の基本じゃないのかな、ということを考えたときに、「日本のスタンダード」というキーワードで考えれば、もうちょっと一つにまとまれるんじゃないかなって思ったんです。何らかのレッテルを貼られたアーティスト、つまり一回世に出た後で商業的成功を得られなかったり、あるいは、ちょっと売り方が難しいというような理由がいくつかあって現在契約がないアーティストがいる。しかも事務所がなくなっていたりしても、継続的に音楽を続けている。そんな人たちに場を与えていくことの方が逆に本当は必要なんじゃないのかと僕は思ったわけです。だからといって、単に『契約してない』っていうだけでイベントをくくるのはちょっと無理があるなと。そこで「スタンダード」という概念を持ってきたわけなんです。

--「スタンダード」ですか?

佐藤:はい。スタンダードっていうのは、要するに、いわゆる芸能の方にちょっと目を向けて、そことの比較でなんとなく大きくみてみたら、明日一枚でも多く売れるヒット曲を作っているのかどうか、っていう。

--一枚でも多く売れるヒット曲…ですか?

佐藤:つまり『売りさえすれば』っていうところでものを作っているかどうかに焦点を当てたんです。僕は、正直言うと歌謡曲も大好きなんで、ある種デフォルメされたおもしろさが大衆芸能のエネルギーの原点みたいな所もあると思っているんで、決してこれは良い悪いじゃないんですが、『よりたくさんの人に聞いてもらうメガヒットを狙うぞ』とか『大衆的なところへアピールする力を強くしていこうか』っていう時と、反対に音楽を作る側として『この音楽はこうあるべきだ』とか『こういうふうに聞いてほしいな』という思いがありますよね。それは必ずしもセールス枚数とは一致しないわけですよ。音制連の主だったアーティストの系譜をずっと見てみれば、やっぱりヒット曲作りというよりは、よりクオリティの高いもの、より自分らしいものという、ある種アーティスティックな部分にこだわっている人達が作ってきたものが、結果的に大きなヒットに繋がった、あるいは瞬間、瞬間に売れているんではなくて、結果的に継続して時を越えて売れているんだな、と思ったんです。10年20年経って、そういったものがすごい累計になっているっていうことが、我々の一番の財産じゃないかということに気づいたんですよ。

今こそ必要なのは、「文化としてのポップス」「カルチャーとしての音楽」
佐藤氏4 --そこにin the cityの概念が繋がったわけなんですね。

佐藤:はい。つまり、若いアーティストもキャリアがあるアーティストも、みんなどっかでスタンダードを目指してるんだ、というキーワードを持ってくると、何か一緒に色んな事ができるんじゃないかなと。本来的にin the cityが目指していた若くてまだ契約をしていないアンサインド・アーティストと、キャリアがあってそれなりに実績も作ってきたし、それなりに業界にも影響を与えてきたしフォロワーもいるんだけども、でも今はそんなにいい状況ではないという人達、また、すごくキャリアがあるアーティストで今は音楽の中心からはちょっと外れているけれど、たくさんの人に愛されている、敬われている、そういった人達が同じイベントに集まって、それぞれに「スタンダード」というテーマでコラボレーションするというお祭りをやっていったらいいじゃないかと考えたんです。新しいアーティストを見つけてブレイクさせましょうっていう商業的な方向ではないものでやりたい、なと。

--それは、それぞれ各社が自分たちでやっているから、もういいだろうと。

佐藤:そうです。10代〜60代までの音楽人を一堂に介してイベントをやっていく、そういうことをin the cityで作っていけたら、もう少し音楽は活性化するんじゃないか、と思ったんですね。しかも公的なお金をベーシックにして何かやるんであれば、もうちょっと"文化としての"ポップスや、"カルチャーとしての"音楽みたいなものにスポットを当てた方がいいんじゃないかと思ったわけです。

--それが「J-STANDARD。」だったんですね。去年は具体的にはどんなことをやったんですか?

佐藤:20代,30代のアーティストが自分が敬愛する40代,50代のアーティストのスタンダードナンバーを歌ったりとか、あるいはそれを歌ってもらった当のアーティストが出てきて、また自分がスタンダードと思うナンバーを歌ったりとか、あるいはみんなで一緒にやったりっていうことをやれたらいいんじゃないかな、というアイディアを出して、去年はそういったものを中心に考えてコンサートをブッキングしたんですよ。

--ベテランでいえば、ユーミンとか飛鳥涼さんとか、大貫妙子さんとかが同じステージに立つっていうのは初めてですよね。

佐藤:全く初めてのことですね。ユーミンと大貫さんは30年のキャリアで、しかも近いフィールドでずっと音楽をやっているんだけども、過去に一度も同じステージに立ったことがなかったんです。それで初めて2人で同じステージに立ってデュエットを歌ったりだとか、さらに、10代の頃からそういった音楽をずっと聞いてこの世界に入って、今現役でやっている人達が、その同じステージでコーラスをやるとか。つまり売れてる売れてないとか、新しいムーブメントなんだとか、これからの傾向は○○だ、とかいうことではなくて、『音楽そのもの』にスポットが当たる、楽曲そのものを生み出した『アーティスト』にスポットが当たる、そんなイベントを作ったらもうちょっとみんな楽しいんじゃないかなと思ったんですよ。


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