Musicman-NET SPECIAL REPORT

榎本氏 榎本和友氏
 低迷が叫ばれる音楽業界の中で、組織再編など大胆な改革を押し進め、業績も好調な(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下 SME)。改革の先頭を担っていた盛田昌夫氏の後を受け、代表取締役/コーポレイト・エグゼクティブ社長に榎本和友氏が就任されました。SMEの前身であるCBS・ソニー黎明期から同社を見続けた榎本氏に、今回の社長就任の経緯と今後のSMEの目指す方向性や、台頭著しい音楽配信ビジネスについてのスタンス、そしてご自身のキャリアまでお話を伺いました。
[2004年8月20日 / (株)ソニー・ミュージックエンタテインメント本社にて]
▼プロフィール
榎本和友(えのもと・かずとも)
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役
           /コーポレイト・ エグゼクティブ社長

1946年4月21日生。
1969年4月 シービーエス・ソニーレコード(株)入社。
同社東京第2営業所所長(1986年)、生産管理部部長(1990年)、SR制作管理本部本部長(1992年)、(株)ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 代表取締役専務(1994年)等を経て、1995年、同社代表取締役社長に就任。以後、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント 理事(1997年)、同社常務取締役(1999年)、コーポレイト・エグゼクティブ(2000年)等を歴任。2003年4月、(株)ソニー・カルチャーエンタテインメント設立とともに代表取締役に就任。2004年6月17日、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント 代表取締役/コーポレイト・エグゼクティブ社長に就任、現在に至る。

<Sony Music Onlilne Japan> http://www.sonymusic.co.jp


【INDEX】
改革の最終段階へ−榎本新社長誕生の経緯
築き上げたヒットのメカニズム
配信ビジネスの主体はレコード会社である
世代交代の循環を絶やさぬように
組織を作り上げる礎−榎本新社長の学生時代
SMEの遺伝子を次の世代へ伝えたい

■ 榎本新社長 一問一答 ■
●ご出身は?
--東京
●血液型は?
--A型
●ご趣味は?
--ゴルフ
●好きな食べ物は?
--カレー、とんかつ、すきやき
●ストレスの発散方法は?
--家でゴロゴロする
●ご自身の性格判断をすると?
--優柔不断 (但し決断したら悩まない)
●座右の銘は?
--着眼大局 着手小局
●心に残っている本は?
--司馬遼太郎 著「龍馬がゆく」
●影響を受けた方・尊敬されている方は?
--父親、大賀典雄氏、小沢敏雄氏
●ご贔屓のスポーツチームはどこですか?
--読売巨人軍


改革の最終段階へ−榎本新社長誕生の経緯
--まず最初にSME 社長就任への経緯をお話し願えればと思います。

榎本: 正直言いまして、一番本人が驚いています。もともと岸さん(岸 栄司氏:元SME代表取締役 現SME 取締役)と前任の盛田さん(盛田昌夫氏:現ソニー(株) 業務執行役員常務)と一緒に組織の改革を手がけてきまして、その一環として組織を音楽事業系と独立事業系に分離し、私は去年の2月にソニー・カルチャーエンタテインメント(以下 SCU)という独立事業系の責任者になり、盛田さんはSMEの社長に就任しました。そして、盛田さんが頑張った結果、色々な意味でSMEが軌道に乗り、一部の会社を除いては業績が悪かったSCUも、おかげさまで大分業績が良くなりまして、「独立事業系も面白いビジネスだな」と思っていたんですね。ただ、盛田さんがソニーに戻るということになって、そのあとお声がかかったというのが経緯ですが、まったく予期していませんでした。いずれ盛田さんはソニーに戻る人だとは思っていましたが、SMEの業績も軌道に乗って、良い数字を残し始めていたので、もう少し彼がやるのかな? と個人的には思っていたんです。私も改革に携わっていましたので経緯を理解しているということと、まだ改革が完了しているわけではないので、経緯がわかる人間がもう少しやったほうがいいだろうということで私が指名されたのではないでしょうか。ですから、今までやってきたことをしっかり継承していくのが、私の最大のミッションです。

--ここ4、5年でSMEは大幅な改革をされて、分社化された時も業界内は驚いたのですが、その改革が一段落されて、現在は終盤に近いという認識なのでしょうか?

榎本: 流れの速い世の中ですから、それに絶えず対応しなくてはならないと思っています。ただ、大きな意味でのファースト・ステップというか、丸山さん(丸山茂雄氏:前(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント 取締役会長)の頃に始めた改革はほぼ最終段階ですから、仕上げというか今まで築いたものを「より強固にする」のが私の役割でしょう。ただ、時代が変わればまた着手しなくてはなりませんけどね。

--盛田前社長から継承される部分もあると思いますが、榎本さんが社長に就任されて、これからSMEはどこが一番変わるのでしょうか?

榎本: 何が変わるんでしょうね。盛田さんは、あの若さにして経営的感覚が優れていますし、レコード会社のトップとして素晴らしい仕事をしたと思います。彼とはアプローチの仕方がちょっと違うだけで、根ざしているものは私と同じだと感じています。また、よく会話もしていましたから、彼から会社を引き継ぐことに対して違和感はないです。ただSMEの社員は結構気が弱いですから、彼には「そんな厳しいこと言うとみんな驚くぞ」と言っていましたね(笑)。でも、それくらいリーダーシップを取ったからこそ、早く改革を進めることが出来たと感じますし、私が同じことをやろうとしたら時間がかかるかもしれません。一年振りにSMEに戻ってきて一番驚いたのは、シェアとプロフィットのバランスが取れるA&Rが育っていたことで、これはこの1年間で盛田さんがしっかり教育をした成果です。私が同じことをしても、ここまで徹底できなかったんじゃないかと思います。

--スピード的にですか?

榎本: スピードもそうですが、私がやるとどうしても荒くなるんですよ。悪く言えば私は物の捉え方が大雑把なんです。座右の銘は「着眼大局 着手小局」、大枠でとらえて実際には現実的な部分に手をつけるというのが自分のスタイルです。また、アプローチの仕方は、私の方が幾分のんびりしているといいますか、「じっくり型」なのかもしれませんね。

--新人アーティストの育成に対しても、じっくり取り組まれていくのでしょうか?

榎本:それは様々です。アーティストはそんなに簡単に育っていかないでしょうが、反面、最近はサイクルが短くなっていますから、昔のように長い時間をかけることもできません。でも、アーティストを育てて世に出していくには、それなりに時間をかけないと駄目だと思いますね。

--社長に就任されて約2ヶ月経ちましたが、社内の雰囲気など肌で感じられますか?

榎本: どうなんでしょう、少し緊張感が無くなってきているのではないかな、と心配になっているんです(笑)。でも能力のある人たちに任せておけばいいんじゃないかなと思っています。おかげさまで、現在SMEは売り上げ的に好調ですが、逆に油断といいますか、気の緩みが出てきてしまうと困ります。下半期に向けて目玉になる作品が一杯出てきますから、それをしっかり売らなくてはなりません。制作も営業もそこはよくわかっていますので、心配はしていませんけれど。


築き上げたヒットのメカニズム
榎本氏 --今までも様々な組織で指揮を執られた榎本社長ですが、このたびSMEという大組織の社長に就任されて、現場に任せる比重は高まっていますか?

榎本: 高まっていますね。逆に言うと現場にも責任を負ってもらうわけです。今までのような組織だと我々トップマネジメントが責任を負ったわけです。もちろん今でも負いますが、現場に任せた以上、彼らに責任を負ってもらう代わりに自由度を与えないといけないですね。我々は「小さな政府」として現場にある程度舵取りを任せなくてはいけないと思います。とは言っても、グループ全体は大きな軍団ですから、それぞれがあっちへ行ったり、こっちへ行ったりされても困りますので、旗艦に乗っている船長としては、できるだけ同じ方向に行くようにしなくてはなりません。どこかに目標を決めておいて「ここへ行くぞ!」と言った時に、多少蛇行する人も早く行ってしまう人もいるかもしれませんが、自由度を与えているわけですから、それは仕方ないと思っています。

--活力の引き出し方が鍵でもありますね。

榎本: そうですね。大変生意気な言い方かもしれませんが、当社は三十数年歴史を重ねてきて、先達がヒットのメカニズム、ヒットができる構造を作り上げてきたんです。アーティストの育成から、A&Rがいい作品を作り、そこで出来てきたものをマネージメントしていく会社を作ったり、そういった仕組みはしっかり出来ていますから、その仕組みが時代に遅れないようにすることと、それを任せるに足る人たちをどう配置するかということは、私の大きな仕事だと思っています。それさえしっかりやれば、ある程度の確率でこの会社からヒットが出てくるという自信があります。逆に、そこを混沌とした組織にしたり、適応しない人間を置いてしまうと上手くいかないんじゃないかとも思っています。

--一時期SMEはソニーのコントロールを受けて、大変なのでは? と勝手に想像していたのですが、最近はそのイメージが払拭されている気がしますが…。

榎本: 正直言って、それはなかったんですよ。最初に当社はCBSでもない、ソニーでもないというジョイント・ベンチャー[CBS・ソニー]として、独自の風土の中で若い社員が勢いよく仕事をしていたわけですが、資本の系列がソニーに落ち着いた時にも、ソニーが音楽ビジネスに口を出してきたなんてことはありません。さすがに三十数年前のCBS・ソニー時代のような活力は少し失われていたかもしれませんが、それは社員の年齢が上がってきたり、それに伴ってコストも上がってきたことがネックになっていたので、人事面や組織、報酬制度も含めて、ここ何年かで見直しをしていたわけです。むしろソニーからの情報が側にあって、IT関連など他のレコードメーカーさんよりも一早く情報が入ってきますから、メリットに感じていました。もちろんブランド力もメリットでした。 ソニーの経営陣も「ソフト・ビジネスはSMEに任せておけば大丈夫」とわかっています。今、出井さん(出井伸之氏:ソニー(株) 会長 兼 グループCEO)や、安藤さん(安藤国威氏:ソニー(株) 社長)を当社の取締役に迎えていることも、我々のビジネスを理解していただくために我々が望んだことです。取締役会ではA&R担当がプレゼンをするのですが、そこで「こういう社員がやっているんだな」「こういう生業なんだな」ということをわかってもらい始めています。

--盛田さんでなければ成し得なかった改革が一段落して、これからはその改革を基礎に、実りを刈り取ろうという時に榎本さんは社長に就任されたわけですね。

榎本:大きく言えばそうかもしれませんけどね。5年近く改革を進める中で、構造を変えたりと色々ありましたが、一段落して気持ちも落ち着いて、その中で成果も出てきているので、これから「果実」をもっと実らせて、どのように収穫していくか? というところに来ているかもしれません。

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