--ここからは、榎本社長ご自身のことをお伺いしたいのですが、いつ音楽業界を目指そうと思われたのですか?
榎本:
元々楽器の演奏はしなかったのですが、音楽は学生時代から好きでよく聴いていたので、レコード会社に入りたいと思ったんです。私はビートルズやカレッジ・ポップスが好きでした。大学の就職課へ行ってみたら、CBS・ソニーの募集があったんです。まさにCBSとソニーがレコード会社を作るという時期で、「面白そうだから受けてみよう」と応募したんです。それで「何故この会社を志望するのか」「何がしたいのか」をレポートで提出する際、学生時代に自分たちで同好会を作った経験をふまえつつCBS・ソニーという新しい会社でやってみたいと書いたら、運良く受かりました。CBS・ソニーも会社が出来たばかりで、これから作っていくという時期でしたから。漠然とレコード会社に入りたいと思っていたので、本当に巡り合わせがよかったんですね。一年卒業が早かったらこの会社には巡り会っていないでしょうし、一年遅かったら今度は入り辛かったと思います。学科試験は出来た記憶がないのですが(笑)。
--何の同好会を作られたのですか?
榎本:
ヨットの同好会です。同じ大学に進学した高校時代の友人と一緒に遊んでいて、体育会に入る気力はないけれど同好会なら自分たちでやってもいいだろうという話になったんですね。それで、ヨット雑誌「舵」の編集長と面識があるという、仲間の中でヨット経験のある体育会崩れの男と一緒に編集長に会いに行ったんです。その方は大学卒業後に仲間うちでヨットを購入したらしいんですが、「そのヨットは材木座の浜辺に埋まっているから、それを掘り起こして使うのならいい」と譲ってくださって、早速現場を見に行ったら本当に船体半分が埋まっているんですよ(笑)。ヨットと言ってもボートに帆をかけたディンギーでした。唯一ヨット経験のある男を中心に、それを掘り起こしてペンキを塗り直してやり始めたんです。ヨットは格好いいですから人が集まってくるんですが、お金がかかるので資金集めのために赤坂プリンスでよくダンパ(ダンス・パーティー)をやりました。仕切りの得意な人間がいて(笑)、税務署と交渉したりするわけです。当時は加山雄三が人気で湘南ブームでしたから、ヨット同好会がダンパをすると人が大勢集まるので、ダンパをやるたびにすごく収入があって、そんなに高くはないのですが「Y15」というヨットが買えました。ただ、ノルマを課せられてチケットを売り歩いたりしていましたけど。
--ヨットがどんどん増えていったわけですか。すごいですね。
榎本:
増えていきましたね。それと共に新入部員もどんどん入ってきました。その同好会は今も続いていますが、最近は運営が大変みたいですね。
--まだヨットの神通力というのは衰えていないんですかね?
榎本:
昔ほどでもないんじゃないですかね (笑)。ただ、その同好会での経験が面白かったので、CBS・ソニーを受けたんですよ。
--レコード会社に入ったら、やりたいことは何かあったのですか?
榎本:
あんまりなかったです(笑)。今は偉そうに「君は何がやりたいの?」なんて聞いていますが。私は楽器をやったこともないし、音楽をやっている人はハイソサエティ(早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラ)やライトミュージック(慶応ライトミュージック・ソサイティー)の出身で、そういう方々が制作をやるわけです。ですから「まずは営業かな?」と思ったのですが、実際に営業が長くなってしまいましたね。
--ダンス・パーティーのチケットを売るように営業もバッチリだったのですか?
榎本:
それとこれとはちょっと違いますよ(笑)。
--今まで長い会社員生活の中で、会社を辞めようかなと思ったことはないんですか?
榎本:
入社3年目くらいに思いましたね。私の実家は下町の商家で、祖母と母親が細々と商売をしていて、かたや父親はサラリーマンでした。ですから、サラリーマン生活と商人の生活の両方がわかる、つまりお給料の生活と日銭の生活がわかるということですね。小さい時にお店のシャッターを閉めると、祖母と母親がお金を数えていて、「今日は売上が幾らで、明日問屋さんに幾ら支払わないといけないのにお金が足りない」と話をしている中に父親も加わって一緒に悩んでいる姿を見ながら育ったわけです。会社では支払いなどメーカーの論理でレコード店とお付き合いしますが、私としてはレコード店のご主人や奥さんや従業員さんの気持ちもわかる。でもそこに理解を示してしまうと、会社の仕事ができなくなってしまうというジレンマが出てきて「辞めようかな。でも、どこへ行っても同じなのかな」と悩んでいたんです。そんな時に父親に相談をしたら、「辞めるのはいいが、明日急に辞めても生活できないぞ。辞めるんだったら、お金を貯めるなり準備してから辞めなければ駄目だ」と言われまして、そんな中途半端な気持ちで半年くらい過ぎた頃に結婚しましたので、結局辞められなくなってしまいましたね(笑)。そこから先は割り切って働きましたが、商人とサラリーマンの生活を両方見てきたのは、自分の中で貴重な経験だったと今は思いますね。
--零細企業の経営者としては、その商店主の思いを是非SMEの社員の方々に伝えていっていただきたいですね(笑)。
榎本:
ビジネスの基本の考え方からいくと、汗を流した分だけ分け前を得るべきなのに、世の中は汗を流した人たちの分け前が少なくて、あまり流していない人が利益を多く得る仕組みになってしまうんですが、ビジネスをやっていく時にはそこがベースだと思っています。相手の気持ちをどれだけ考えてビジネスができるかということはとても大切で、相手の気持ちを考えて仕事をすると、長い目で見ると信頼を得ることができるような気がします。ルート・セールスは特に相手の立場に立って仕事をしないと長続きしませんからね。
--経歴を拝見致しますと、管理・営業畑として実に順調なご出世ですよね。
榎本:
そんなことないですよ(笑)。「実に順調」かどうかわかりませんが、最初は営業をやっていて、その後、販売推進という管理部門に異動したり、色々なことがとても面白かったですね。特に目から鱗が落ちたのは制作管理のセクションに行った時です。制作管理という名前が付くくらいですから、商品にするまでの一連の流れを担当するわけですが、総務や人事を除いたレコード会社の管理機構が全部集まっていて、そこの責任者になった時に制作担当とも親しくなりましたし、彼らがどういうことをしているのか、どういった仕組みで1枚のレコードができるのか、本当に勉強になりました。それから、ソニー・ミュージックコミュニケーションズ(以下 SMC)では常務取締役として、会社を作っていくことを勉強させてもらいました。SMCはレコード・ジャケットの前工程の製版会社として設立されたのですが、上手くいっていなかったんです。そこでの課題は、「この会社は何で食っている会社なのか?」ということを明確にすることでした。SMCは事業を広げすぎていたので、「この会社の根幹は何なのか?」ということをとことんディスカッションして、製版・デザインの分野でもう一回再生しようと決意したんですね。その結果、集約と合理化ができましたし、グループの仕事も増えてきて、大きな商いのできる企業になりました。
--会社を経営するという観点から見ると、SMCでの経験もやはり大きかったわけですね。
榎本:
大きかったですね。先ほども言いましたが、「何がこの会社のへそなのか?」ということをしっかり認識しなくては駄目だということを教わりましたね。
--リーダーがしっかり目標を与えないと駄目だということですね。
榎本:
そうですね。みんなの意識をそこへ寄せないといけませんね。いくら優秀な人が集まっても、それぞれバラバラなことをしていたらまとまらない、ということです。
--ここまでお話を伺ってきますと、入社されてからの榎本社長の30年間は大変充実していらっしゃいますね。
榎本:
本当に楽しい会社ですね。いい会社に巡り会えたと今でも思っています。入社時は滅茶苦茶忙しくて、毎晩夜遅くまで働いたあとに同期と飲みに行ったりしていましたし、会社は上り調子でしたから、こんなに楽しい会社はないです。これは私のロマンなんですが、自分が楽しく仕事をしてこられたので、次の世代の人たちにこの会社の楽しさを伝えていきたいという気持ちがあるんです。そうすることが業績に繋がるのではないか、と思っているんですよ。
--そういう雰囲気だと業績も自然と付いていきますものね。
榎本:
もちろん、時代も変わっていますから昔のようにはいかないですが、少しでもそういうものを次の世代に伝えていくことが、私のサラリーマン生活の仕上げといいますか、夢なんです。私も若い時から仕事を任されて、わからないながらも何とか見よう見まねでやってきました。ですから、あまり日々の細かいことに口を出さず任せていくことが、結果として若い人たちのやりがいを生み、次の世代を育てることになるだろうし、会社に対するロイヤリティーも生み出していくと思います。私自身は経営的なクリエイティビティーがある方ではないので、それぞれの人たちと協力し合って上手く会社を盛り上げていきたいですね。
--本日はお忙しい中ありがとうございました。SMEの益々のご発展をお祈りしております。
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