Musicman-NET SPECIAL REPORT 榎本和友氏
配信ビジネスの主体はレコード会社である
榎本氏 --現在、音楽配信が注目されていますが、榎本社長はこのビジネスをどのように捉えられているんでしょうか?

榎本: やはりアップルのiPodが音楽配信の世界を変えているんだと思うんです。「本当に来たな」と感じ始めています。レコード会社は、配信ビジネスにおいても、次のアーティストと新しい音楽を生み出せるような収益構造にしなければなりません。そのためには第一にレコード会社が配信ビジネスの主体になるべきです。しかし欧米は殆どレコード会社に権利関係が集約されているのに対して、日本は非常に複雑です。レコード会社の収益構造も今まではパッケージに集約されていましたが、それが配信となると音楽業界以外からも参入しやすくなりますし、権利も分かれているので、結局分散して次の音楽を作るどころではなくなってしまうという状況も生まれかねないわけです。ですから、そういった状況にならないように直販でやっていくのが基本スタイルです。そこから先は様々なバリエーションが出てくると思いますが、その前の段階まではしっかりやっていきたいと思っています。

--レコード会社の使命は、いい音楽を作り続けることですものね。

榎本: そうですね。それがレコード会社最大のミッションです。それがユーザーに一番喜んでもらえることですし、音楽自体が作れなくなってしまったら本当に不幸なことだと思います。SMEのような大きなレコード会社という組織があるから、世の中に色々な音楽が普及していくのでしょうし、無論インディーズもありますが、やはりレコード会社という仕組みがないと大きく広げていくのは無理ですよね。アーティストも生活があるわけですから、きちっとした収益が上がらないと困りますしね。そのためには大きく売ってくれる組織がないと駄目ですから。

--パッケージから配信に移り変わろうが、レコード会社は音楽を作り続け、収益を上げ続けなくてはならないということですね。

榎本: そういう仕組みの中でやるべきだと思っていますので、配信ビジネスについても、bitmusicで直販しているのです。日本は欧米にはない「貸レコード業」というものがありましたから、今までの配信ビジネスは黎明期のような状況だったわけですが、iPodに代表されるポータブル端末の出現によって、次のステップに入っていくと思います。一方で著作権についてユーザーに啓蒙活動をしなくてはいけませんから、色々なことを同時にやらなくてはならないですね。また、ノン・パッケージビジネスの普及によってパッケージの売り上げがどんどん減少していくかどうかは、もう一度しっかり検証する必要があると思います。

--現在、音楽産業全体としては下降線を辿っていますが、もう一度音楽業界・音楽文化を復活させる秘策のようなものはお持ちでしょうか?

榎本:今のところこれといった妙案はありませんが、まだ業界全体の無駄なコストがありますし、メーカー同士でコラボレートするなど、できるだけコストを絞り込んで業績を上げるという方法論はあると思います。今後は業界の枠や会社の枠を越えて、協力しなければならない場面がたくさんあるでしょうね。ただ音楽業界が不況だと言われますが、そんなに滅茶苦茶減っているのかなと思うんですよ。パッケージはピーク時に6000億円売り上げましたが、現在の4000億円というのは91、2年と同じくらいなんですよね。93年以降の大量にミリオンヒットが出た時代はややマーケットの膨張という意味で異常だったのだと思います。その当時、一般社会はバブルではなかったんですが、音楽業界はバブルでしたね。これは私の推論ですが、結局、この数年間で消えていった2000億円の半分くらいは流通在庫だったと思うんです。例えば全国三十数営業所に在庫を持っていた卸業者さんも、今は3カ所、4カ所に集約しているわけです。その間に外資の攻勢などがあって流通在庫が拡大し、あるところから流通在庫の整理が始まってだんだん減少していったというのが現状でしょう。ですから配信が伸びて、パッケージが2000億に極端に落ち込むかといったら、必ずしもそうはならないと私は思っています。これは希望的観測かもしれませんし(笑)、もちろん減少することを前提にした経営をしますが、そんなに悲観するものでもないのでは、と思いますよ。

--例えば、購買層の年齢も10年前と比べると明らかに変化してきていますよね?

榎本: 私は団塊の世代の初期に属しますが、この世代は生活にも余裕が出てきて「音楽をもう一度楽しみたい」という人が一杯いるはずです。人口比率を見てもたくさんいらっしゃって、そういうエルダー層にどうやってもう一度音楽を楽しんでもらうかというマーケティングの仕方もあるわけです。ただ、こんなことを言うと怒られてしまうかもしれませんが、彼らがレコード店に通うかというとすごく疑問なんですよ。これからは、私と同世代の方々がパソコンを使って、NET上でパッケージを購入する機会も多くなってくると思いますから、エルダー層に向けた商品企画が必要になるでしょうね。


世代交代の循環を絶やさぬように
榎本氏 --現在、他のレコード会社との交流はあるのでしょうか?

榎本: この業界は、競争しているわりにメーカー同士の仲がいいですからね(笑)。でも不思議と会社同士が一緒になるという話はありませんね。各社が持っているカルチャーが違いますから難しいのかもしれません。日本は資本の関係で別ですが、海の向こうではソニーBMGという会社が誕生しまして、少なくともBMGファンハウスさんはソニーの資本が半分入った会社の傘下になったわけです。今のところ日本のSMEが直接影響を受けることはありませんが、今後なんらかのコラボレーションができるかもしれないですね。

--社長に就任されて、お忙しい日々だと思われますが、現場に出て行かれる機会はありますか?

榎本: さすがにスタジオには行きませんが、ライブに行ってアーティストに挨拶することはありますね。あとは制作スタッフと月に一回集まって情報交換をしながら、会食をしています。ただ、現場に出ていって指示を出すようなことはありません。現場は若いトップ達に任せたわけですから、彼らが自由にできるようにしなければいけませんから。そこは兄貴分として北川さん(北川直樹氏:SME コーポレイト・エグゼクティブ)が本当にマメに動いてくれていますので、彼を中心に回ってくれればいいわけです。IT関連は秦さん(秦 幸雄氏:SME コーポレイト・エグゼクティブ)に任せています。

--北川さんは大変人望の厚い方と伺っております。

榎本: そうですね。北川さんは良くやってくれていますよ。彼が現在のような立場になったので、今度は現場の中で兄貴分になれるような人が育っていくと、次の世代の人がトップになれるでしょうし、そういう循環を絶やさないようにしたいですね。制作は感性の勝負ですから、若い人たちの力が必要です。一方エルダー層に対しては野中さん(野中規雄氏)が代表取締役のソニー・ミュージックダイレクトという会社で、比較的ベテランのスタッフが制作に携わっています。これがやっと上手い具合に回り始めているところなんです。こういう循環を壊さないようにしていくことが1つのテーマになってくると思います。

--このMusicman-NETは音楽業界を目指している人が多く見ているのですが、そういった人や実際に「SMEで働きたい!」と思っている人に何かアドバイスを頂きたいのですが。

榎本: そのように当社を熱く思ってくれる方々は非常に大切だと思っています。ですから、そういった方々にはできるだけ門戸を開きたいですね。当社は新卒者も採用していますが、中途入社の方もいます。新卒者と中途入社の社員を分け隔てすることもありませんので、ご縁があればと思います。我々も常に新しい力を必要としていますから。


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