Musicman-NETいけんばこ
著作権法一部改正に関する 音楽評論家 小野島 大 氏の主張

[消費者の選択肢がなくなる?ワールドミュージックの消滅]

−−では、この法案が成立すると具体的にどのようなことが起こりうるのか?

法律が施行されたその日から輸入盤が一切無くなるということは考えられないですが、1、2年経って「そういえば、最近輸入盤高いよね」「数減ってるよね」「アメリカ盤を買いたいんだけど、どこにも売ってないんだよね」というのが一番考えられる状況です。「いつの間にかあの輸入盤屋つぶれてたよ」なんてこともあるでしょうし。今までは状況に応じて輸入盤か国内盤を選んで買えたのに、輸入盤がなくなれば国内盤を買うか買わないか、もしくは違法ダウンロードするか、友だちに借りるかくらいしか、選択肢はなくなってしまうし、選ぶ喜びも何もなくなってしまうと思います。たぶん本当に音楽が好きな人は、多少高くなっても、買うはずですから、今回の件でまっ先に去っていくのはグレーゾーンにいる人たち。それと、これから洋楽を聞こうとする人たち。こういった人たちが音楽を聞かなくなることは、音楽産業にとって致命的なことだと思いますね。

−−海外のレコード会社は、どのように考えているのか?

最近の文化庁や議員の発言やRIAA(全米レコード協会)の文書などからは、日本のアーティストの還流盤ということでなくて、発展途上国からの輸入盤をすべて禁止しようという意図がみえてきています。この時点で文化庁やレコード協会の「アジアからの邦楽CDの還流盤のみ」という説明には矛盾があるなぁと気づくわけですよ。

−−何故、発展途上国からの輸入を禁止しなければいけないのか?

そもそも、発展途上国の定義って何だろう?と。RIAAの文書では、海賊版を阻止するために発展途上マーケット(ディベロッピング・マーケット)からの平行輸入を阻止するべきだと言っています。発展途上マーケットの定義っていうのは、たぶん海賊盤が横行している著作権の概念がないマーケットのことを意味しているんだと思うんですけど、現状として海賊盤(カウンターフィット盤。正規盤のコピー盤)が日本のマーケットに氾濫してるか?というと、そんなの見たことないですよね。欧米では被害が深刻で、その温床が並行輸入だという言い分もわからなくはないですが、今の日本の状況でこんな無理をしてまで法案を通す必要があるのかと思いますね。

では、例えば価格が安いからだめなのかというと、アメリカから入ってくる輸入盤は安いですが、対象外になると言われていますし、これも矛盾している点のひとつですね。

このままだと、邦楽と、英米が世界で展開して売ろうと考えているものを除く音楽、たとえばワールドミュージックと呼ばれているものなどは、ジャンルそれ自体が消滅しかねない状況なんですよ。この危機感はロック、ポップの比じゃないですよね。もともと輸入盤でしか手に入らないものが日本盤になるとは考えられないですし、実際問題それは難しいと思いますからね。そんな危険をしいてまで何故、今というのがやっぱり納得いかないところですね。

[法案の裏にあるもの、このまま法案が成立してしまったら…]

−−では、この法案の裏には何かあって、彼らの本音は別にあると。

あぁ、それはもちろんあると思いますよ。そう考えざるを得ないですね。もともと日本では輸入盤と日本盤ってものはちゃんと共存できているし、安い輸入盤が出回っている状況は日本のレコード会社自身が作っているものなんですね。それをわざわざ輸入盤すべてを対象にしてという、それがいかに無茶なことかわかっているはずなのに、何故そんなに無茶を通そうとするのかが疑問です。その先には、きっと、日本のレコード会社が生産拠点をコストの安いアジア(主に中国)に移そうとしていることや、世界の5大メジャーの意向なんかがあるんじゃないかと思っていますね、まぁ、これは推論でしかないからわからないんですけども。

−−具体的に法案を見直そうという動きは出ていないのか?

洋楽の輸入盤禁止になるのではという不安が音楽ファンに広がっていることは、文化庁やレコード協会の方々も、認識していると思うんですね。ですが、法案をいまさら変えるわけにはいかないから、衆議院で「これは還流盤のみに対応するものであって、洋楽に適用することは考えていない」と文部科学大臣が答弁すると言ってますが、結局そう言ったところで、大臣の発言には法的な拘束力はありませんし、法案が成立して、法律的に輸入盤の規制が可能になってしまえば、輸入権を行使するかしないかは海外のレコード会社が決めることになるので、もうこっちでは何もできなくなってしまうわけです。法律を作った時点では何も意図はなかったとしても、今後拡大解釈はどうにでもできるから、怖いですよ。

だから、一番いいのは法案そのものがなくなって、邦楽の逆輸入盤だけに限定したいなら、著作権法で対応するのではなく、この法案に代わる何か、関税を高くするとか別の方法を考えてもらいたいと思っています。

−−もし、このまま法案が成立したとすると。

そうなったらもう、監視していくしかないですね。RIAA、文化庁、レコード協会共にアメリカ、EUからの輸入盤は対象外と発言している以上、一枚でも輸入制限にあったら嘘になりますから、それを指摘し続けていくしかないというか。

−−この問題は邦楽しか聞かない人たちにとっては全く関係ないのか?

全く無関係ではないでしょうね。日本の音楽にも洋楽に影響されたものはたくさんありますから、洋楽ファンが少なくなることで、日本の音楽が今までとは全く違うものになってしまう可能性もありますし、音楽の在り方自体が変わるかもしれないですね。

ものすごく極端なことを言うと江戸時代みたいに、鎖国じゃないですけど、限られたものになってしまうかもしれない危険性があるわけですよ。まぁ、そこから面白い文化が生まれる可能性もあるわけですが…。

一世を風靡した「渋谷系」ってありますよね?あれはもう世界でも「渋谷系」というジャンルが確立されていて、日本の音楽シーンの重要なひとつなんですね。あの「渋谷系」が生まれた背景っていうのは、世界のカルチャーが集まる東京・渋谷だからこそ生まれたものでしたし、「渋谷系」は、洋楽がなかったら絶対に生まれなかったであろう文化ですから、そういう新しいものが生まれる機会がなくなるというのはどうなんでしょう。よくないですよね。

[好きな音楽くらい自由に聴かせて欲しい]

−−実際に行動を起こしてからの状況に変化はあったか?

この件に関しては、こんなにみんな(音楽ファンをはじめとする賛同者)の気持ちが一致団結して反対するのは珍しいというか、こういうことは今までにもないし、きっとこれからもないと思うんですよ。ただお金を出してレコードを買ったことがある人にとって、これ(著作権法改正案)は賛成できるとは思えないことですから、そういう人たちがみんな賛同してくれているのではないでしょうか。

僕らは、多少知名度があるから、メディアに対しても多少の影響力はあると思いますが、政治に対しては一般の人がやるのとなんら変わらないかもしれないですし、全く無力かもしれないですが、あとで後悔するのは嫌だからやることはやっておかないとと思っていますね。

結局はみんな「好きな音楽くらい自由に聴かせて欲しい」という信念をもとに動いているだけですね。すべての願いはそこにあるといいますか。

−−最後に、音楽ファンに伝えたいことがあれば。

一部の人の意向によってひとつの文化が消えていく(消されていく)、発展途上国からの音楽がすべて禁止されて、ワールドミュージックが消えていく、いろんな文化が一握りの人のために消えていくっていうのは本当におかしいことだと思います。だから、少しでも多くの人がこの問題について考えて意見して、自分たちの出来る方法で「自由に音楽を聴くために」ギリギリまでやれることを行動していって欲しい、今言えることはそれだけですね。

−− この問題については、いち音楽メディア、いち音楽ファンとして、これからも注意深く見守っていきたいと思う。 M

[2004年5月19日 新宿某所にて]

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