−−これは内沼さんじゃないと聞けないことだと思うんですが、「いい音」とはどういう音だと考えていますか?
内沼:簡単に言ってしまえば「感動する音」ですよ。その「いい音」が物理的なのかどうかというのは、ちょっと不明確でしょ? だけど人を感動させるものがあれば、それは「いい音」なんですよ。
−−とても明解ですね。
内沼:そう。僕はいつもそう思っています。
−−録音によって音楽を1にも出来るし、100にも出来るということは、比重はものすごく大きいですよね。
内沼:大きいと思いますよ。演奏して、アレンジして、歌ってそれをまとめるわけで、特に歌なんか気を遣うんだけど、「本物の歌よりも良く聴かせてあげたい」という思いが強いですね。
−−聴かせ方で全然違ってきますよね。
内沼:違いますね。今ProToolsでピッチを直したりするのも、確かに良くさせる方法ではあるんだけど、そうじゃなくて音として訴えるものを出してあげる。曲によってやり方は変わってくると思うんだけど、そこを考えてあげればエンド・ユーザーは「感動する音」として捉えてくれるんじゃないかな? もちろん楽曲の善し悪しもあるんだけど。
−−ミックスだけ依頼されることはあるんですか?
内沼:後半はその方が多いですね。
−−ミックスする音源を最初に立ち上げたとき、内沼さんはまず何を中心に聴くのですか?
内沼:僕の場合はね、まずラフ・ミックスを送ってもらうんですよ。それを聴いてポイントを絞っちゃうんです。
−−「僕は必ず歌からだ」といったような感じではないわけですか?
内沼:そういうわけではないですね。それは曲によって違う。最初に曲を聴いたときのイメージ。
−−本当に面白い仕事ですよね(笑)
内沼:いや、入り込むとやめられない(笑)。
−−70〜80年代にライバルと思われていたエンジニアは誰かいらっしゃいますか?
内沼:それは一杯居ますよ。70年代だと行方さんなんかもそうだし。行方さんに結構あこがれた時もあるんですよ。テイチクに入ったときに行方さんがたまに来ていて、「この人すごいな」と思って、「この人みたいになりたい!」と思ってやっていましたね。ビクター時代ではやはり梅津君かな。
−−では、若手の中に「こいつはすごいな」と思われる方はいますか?
内沼:ラボの人間になってしまいますけど三浦(瑞生)とか、手塚(雅夫)なんていうのは「いいな」って思います。また我々とは全然違ってね。
−−エンジニアも年代によって変わってきているとお感じですか?
内沼:「若い人って誰がいる?」って考えてみると、若い人って20代後半とかなんだけど、やっている人はいるんだけど、意外といないんですよね。「あいつまだ若手だよね」っていう人が、30代半ば〜後半とかね。「エンジニア全体の年齢が上がってるだけだ」と言った人がいたけど、確かにそうだよね。我々が早く辞めちゃえばいいんだけど(笑)、10年前も今も図式は変わっていないのかもね。ということは若手が出てきていないって事か・・・。
−−あるいは上の世代が強力すぎてなかなか追い抜けない?
内沼:あと制作本数も少なくなっているというのもあるのかなぁ。今、エンジニアになりたいと望んでくる人は少なくなっているんですよ。この仕事って魅力なく見えてしまっているのかな? とすごく感じるんです。まあ、他にやりたいことが増えているんだろうけど、若いエンジニアを育てていかないといけないと思っているんです。だから、「どうしたらいいのかな?」と言う事から、ミキサー協会というのを立ち上げて。金銭的に良くなればいいというだけではないと思うんですけど、ある部分では金銭的なものも必要だと思います、隣接権とかを取得できるようなことを考えたり。若い人が少しでも魅力を感じる職業になってもらえたらと思うのですけどね。
−−内沼さんが隣接権を全部持っていたら、どのくらい稼ぐんでしょうね(笑)。
内沼:昔だったら別だけど、今はね(笑)。我々じゃなくて、若い人がエンジニアリングしたものに対しては必要だなと思いますね。
−−エンジニアを目指す人にとって一番重要なポイントとはなんですか?
内沼:もちろん技術的なものも大事と思うのですけど、技術的なものは入ってからでも、覚えられるわけですよね。だから一番大事なことっていうのは、コミュニケーションを取れることですね。この業界、とくにスタジオはサービス業なので、クライアントとコミュニケーションが取れる人じゃないといけない。クライアントに「もうあいつ付けるの止めてよ」って言われるんじゃなくて、「あいつをまた付けてね」っていうような人。技術的なものは無論付随するんだけど、基本的には人付き合いです。
−−技術的なことはそのあと勉強しなさいということですね。
内沼:そうそう。
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