株式会社オン・ザ・ライン
代表取締役社長 西 茂弘 氏
すべてを把握しなければ指示はできない〜分業制の落とし穴とは

●オン・ザ・ラインの社員は今何人いらっしゃるんですか?
10人です。
●事務の方も含めて10人っていうことは、先頭に立って制作なさっている方は半分ぐらいですか?
いや、もっといます。デスクが2人、経理が1人ですから。7人が戦闘態勢です。先頭指揮官が前線にいないようじゃダメですよ。だってミサイルの戦争をやってる時にペンタゴンから機関銃足りなさそうだから、って送ったところで、宝の持ち腐れで意味がないでしょう。やっぱり前線にいて状況がどうなのか分かんないとダメだから。

それとね、人数が多すぎてもやりづらいと思うんですよ。会社が大きいと、どうしても分業制になってしまいますよね。例えばトヨタみたいに毎日タイヤだけはめている、という人が出てくる。車の制作過程を全部知った上でこういうはめ方がいいとか、この時期にこういうタイヤが合ってるんじゃないかと考えるのはいいんですけど、最初からずっとタイヤだけしかはめられないとしたら、アーティストや音楽業界全体をどうしようかっていうときに、「いえ、タイヤしかできません」ってことになってしまいますよね。
●そもそも車全体を好きかどうかもわかりませんよね。
そうそう。「タイヤのことならわかりますけど、車全体のことは私の範疇外です」ってなってしまう。タイヤのスペシャリストだったら、トヨタ社内で作るよりもブリヂストンにアウトソーシングした方がもっと良いタイヤができるかもしれない、とかそういう議論になっちゃうし。

レコードメーカーも昔は「アーティストとどういう話をして、何が必要でスタジオでは、マスタリングはどうして、プロモーションはこうする」って全部の行程がわかる人がいたと思うんでよね。それが人が増えすぎたり作業が複雑になったために専門分野に分けすぎちゃって、全体をくくる人がいなくなってしまった。病院もそうらしいんですね。
●それはプロモーターの世界でも言えることなんですか?
そうかもしれないですね。
●大手プロモーターはそういう状態になりつつあるんでしょうか。
プロモーターに大手はないんですが、例えばキョードー東京とうちを比べてみると、キョードー東京は人数が40人いるだけ、分業制になりつつあるんですよね。うちは10人しかいませんが、「苦しいけど全部把握しろ」って言ってるんです。全部把握した上で指示系統を出せと。うちではいわゆる巨人の1番から9番、ヘッドクォーターを養成しているんです。最終的には1番から9番の監督をめざしてるんですよ。監督が全部知らない限りは指示できないですよね。やっぱり全部の流れとかやり方を知った上でやるべきだし。
●ところでイベンターとプロモーターを区別して使われてますよね。違いを説明していただけますか?
イベンターさんっていうのはローカルに根付いて、情報を発信したりイベントとかを手掛けている企業ですね。テレビ局でいうと、テレビ静岡とテレビ東京などの地方局。現地に根付いて現地の範囲から出ない。プロモーターっていうのはテレビでいうとフジテレビなどの全国ネット。キー局ですね。僕らはそう使い分けてます。全国ネットでハンドリングしているのがプロモーターで、ローカル単位でやっている場合をイベンターって言ってますね。
●ということは、プロモーターからイベンターに仕事をふるということですね。
もちろんそうです。イベンターからプロモーターに仕事がふられるということは絶対にないです。
●そうすると、ACPC(社団法人全国コンサートツアー事業者協会)というのは…
イベンターの集まりですね。
●ローカル局なんですね。プロモーターにはそういう組織はあるんですか?
いやないんですよ。本当はそういう協会を作った方がいいのかどうか、よくわからないんですけどね。
●ACPCの中にプロモーターも一応含まれてるんでしょ?
一部入ってるところもありますね。
●オン・ザ・ラインは入ってるんですか?
入ってないです。ウドーさんも入ってないんですよ。入ってるところもけっこういっぱいありますよ。
日本のこのマーケットから考えると、日本にこんなにたくさんイベンターがいるってことも不思議ですよ。 ACPC(社団法人全国コンサートツアー事業者協会)加盟団体で52社ぐらいあるんでしょうかね。日本の国土はカリフォルニア州ぐらいしか大きさがないのに、イベンター会社がそれぞれの都道府県に1つ以上あるような形なのはちょっとおかしいと思うんですよ。行政も同じようなことが言われてますよね。47都道府県があって、それぞれに市や町があって、その下に村がある形は本当に正解なのと。これがもうちょっと身軽なら、正解だと思うんですよね。ある程度その自治体同士がファジーな部分があればいいんだけど、一国一城で、アメリカの州ぐらい違う。それぞれがきっちりピラミッドになっていて、それが47あるわけだから。
●成り立ってること自体がおかしいと。
おかしいと思いますよ。じゃあそれでパブリシティや制作もそれぞれのローカルでやってるかというと、ほとんど東京中心で物事が行われていて、しかもインターネットの普及ですべて全国ネットになってしまってる。
●でもこういうイベンターってまだまだ増えそうな感じですよね。
それはですね、僕はこう思うんです。もうちょっと身軽で、逆にいつなくなってもいいような規模の会社だったらたくさんあってもいいのかもしれないけど、社員が40人くらいいるような会社があれだけあるのはどうかと思うんですよ。「社員がたくさんいるから、そのためにこれをやらなきゃ割があわなくなる」っていう風に仕事をするのはおかしいでしょう。
●まさにゼネコンみたいですね。
そうですね。そうなると会社って不思議なもので、「毎年社員入れなきゃいけない」→「必然的に社員が増える」→「社員数が右肩上がりだから、当然会社も右肩上がりで大きくなる」…って思いこんじゃう。そういう変な状況になるんですよ。うちの社員にもよく言いますけど、会社の業績が上がったり下がったりするのは当たり前で、そんなことに一喜一憂する気はないし、たまたまお陰様で3年連続上がってますけど、そんなことはぜんぜん偉くも何ともないと我々は思ってるんです。アーティストと一緒にやってるわけで、作品にもよるから、上下が出てくるのは当然なんです。それがみんな右肩上がりに慣れすぎてるから、下がっちゃうとアーティストが終わりだとかマーケットがなくなったとか、会社もダメになったとか言われる。そんな事はないんですよ。
●入るものは入ってるし、売れるものは売れてるということですね。

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