株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
取締役/コーポレイト・エグゼクティブ 盛田昌夫 氏
ハードの側から眺めてみると…音楽業界の難しさ

●ハードからSMEに移るにあたってはご自分の意志で手を挙げられたんですか。
いいえ、ある日突然出井会長(出井伸之氏:ソニー(株)代表取締役会長兼CEO)から電話がかかってきて「次はソニーミュージックに行きなさい」って言われたんです。
●自ら志願してってことではなかったんですね。
そうではないですね。僕はそれまで、歌というものは自分で歌うものだと思ってたから。
●そうなんですか(笑)
そしたら、いきなりここで人の歌う歌を売らなきゃいけなくなって、ちょっと釈然としないところがありましたよ。けっこうカラオケ好きですからね。僕はすごいですよ。週に3日ぐらいカラオケに行くんだけど、そうすると年間50週だと150回でしょ。そこら辺のアーティストよりライブの本数多いんですよ。
●ほんとですね(笑)。どの辺のジャンルを歌われるんですか。
もう幅広く。演歌から浜崎あゆみまでね。丸山さん(丸山茂雄氏:(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント取締役)がね、「レコード会社の人間がカラオケやっちゃダメだ」って言うんですよ。「何でですか?」って言ったら「自分が下手だったらアーティストに歌い方悪いって文句言えないだろう。代わりに歌ってくれって言われたらどうするんだ」「歌います!」って言ったら「バカ」とか言われて(笑)
●ハードからソフトに移ったときに、いちばん違和感を感じたところはどこですか。
ハードっていうのはわりと先が読めるんですよ。特にこてこてのハードは。例えばソニーと松下と東芝のテレビを並べると、インチサイズが大きいとか、画素数が多いとか比較できるでしょ。それから49,800円のテレビのマーケットが日本で年間何台あるかもわかりますよね。仮に200万台のマーケットだったら、絶対に300万台売れることはない。そうすると代理店でも販売の際に自分たちがとれるポジションがわかってて、そこのしのぎ合いが問題になるわけ。ある意味、負けた時の負けた理由もわかるわけですよ。「向こうの方が値段が安くて性能が良かったとしたら、それは絶対向こうの製品を買うよなあ」っていう理由ね。だから、わりとハードっていうのは、最初からターゲットプライスや、ターゲットフィーチャーを決めてかかれるんだけど、音楽は…
●なにがどうなるかわからない(笑)
でしょう?エイベックスの浜崎あゆみと、ソニーミュージックの元ちとせを比べて、曲の時間がこっちの方が長いとか短いとかそういう問題じゃない。浜崎好きな人は浜崎買うし、元ちとせ好きな人は元ちとせ買うし。両方好きな人はどっちも買うし、嫌いな人はどっちも買わない。例えばうちもエイベックスさんも両方で浜崎あゆみを売ってて、ジャケットの色が違うからどっちの浜崎がいいかとか、そういう問題じゃないからね。

要するにハードから来ると、そういう感じになっちゃうんですよ。ハードはマーケットサイズ、プライスターゲットっていうのがわかってるし、よその実力もこっちはわかってるから、そのターゲットによそがどんな商品をぶつけてくるかっていうのもわかる。秋葉原に行って、ソニーのテレビ、東芝のテレビ、松下のテレビって並ぶわけじゃない。ところが、音楽業界っていうのは、それぞれがみんな専属のアーティストだから。要するに元ちとせと浜崎を比べてどっちがいいか悪いかっていう評価の問題じゃないですよね。
●分析しにくいですよね。
商品企画もハードのようにはたてられないでしょ。例えば元ちとせ担当のディレクターは、自分やアーティストがいいと感じたものを一生懸命作って、FM局やなんかにプロモーションをしていくわけでしょう。だから全部が(アーティストによって判断基準が)違うわけですよね。ずっとハードで生きてきて、そういう意味でのディシジョンするよりどころが僕にはないから、どう判断したらいいのかなって気持ちは最初多少ありましたよ。別に僕が制作やってるわけじゃないけど…。
●じゃあ、盛田さんがSMEに来た以上、ここだけはこう変えてやろうっていうところは何かありますか。
そんな大げさな意気込みはないですよ(笑)。 ただ音楽っていうのはこれまでパッケージでしか届けられなかった時代から、今みたいにデジタルでいろんな形で受け取れる時代に変わってきているでしょう。インターネットや携帯電話、衛星放送、デジタル放送とか…そういうものがどんどん増えてくると、同じアーティストの楽曲を届けるのでも、いろんな形態が出てくる。その時に、今までのビジネスのやり方に縛りついても、世の中の方が変わっていっちゃうし、一番肝心なのは、それを買うユーザーの生活環境とか、ダイナミズムが変わってきてることですね。

やっぱり我々のビジネスっていうのは、コンシューマダイナミズムが変わってきてる中で、どうやってアーティストの楽曲を届けていくのか、自分たちでそれに合わせて模索していかなきゃならない。そうすると単純に今までみたいな権利関係とか印税の分配だとか、今、非常に問題になっている著作権保護の問題が出てくる。著作権は確かに守らなきゃいけないアーティストクリエーションだけど、今まではパッケージという形が基本としてあって、完全に売り切る形でお金を取れたけど、これからは、例えば聴く権利だけっていうのも出てくるわけでしょ。その楽曲は持っていなくても聴ければいいっていう。いろんな音楽の楽しみ方が出てきた時に、それをどういう形で保護しながら、かつ、ユーザーのダイナミズムに合った届け方をできるか。そういうことを考えたときに、今まで面々と守ってきたものが、必ずしも今の技術やユーザーの環境に合わなくなってきたとしたら、やっぱりそれは変えなきゃダメだよね。
●そうですね。そういうハードの判断に強いソフトの人の登場が待たれていたんですから、盛田さんがSMEにいらしたのはグッドタイミングだったんですね。

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