第139回 須藤 晃 氏 音楽プロデューサー

6. 尾崎豊との奇跡的な出会い


−− 改めて尾崎豊さんとの出会いをお聞きしたいのですが。

須藤:尾崎さんとはオーディションで出会ったんですが、最初、彼は岸田智史とかさだまさしみたいだったんですよ。声が綺麗で、生ギター一本で歌うみたいなイメージで、フォークっぽかったんです。その岸田くんもデビュー後はフォークというよりも、Jポップに近い感じになっていたじゃないですか。そういう時代だったので「フォークはもう売れないぞ、須藤」って言われて。でも尾崎豊というアーティストは詩も良いし、声も綺麗だから可能性がある、しばらく育ててみますと。それで僕が担当になったんです。

まだ尾崎さんは青学の高校生だったので「土曜日に会社へおいで」って黒ビルに呼んだんですよね。それで会社で待っていたんですがなかなか来なくて、僕もレコーディングがあるし、会社を出ようと思っていたらエレベーターがチンっと鳴って、若い子が降りてきたんですよ。で、ぱっとみたらもの凄く綺麗な顔をしていたのでびっくりして(笑)。学生服を着ていますし。

−− オーディションのときはライブで見たんじゃないんですか?

須藤:ライブで見たんですけど、そのときは変な雪駄を履いて、Tシャツで普通の学生ズボンみたいなのを履いていましたから。でも学生服を着て、ぱっと見たら背も高いし、顔が顔ですからね。「うわー」と思って。それで「こっちこっち」って手招きして二人っきりで色々話したんですが、凄く腰が低いというか礼儀正しい人で好感を持ったんですよね。「僕が担当になったのでよろしくね」って言ったら「若い人で良かった」みたいな。僕も20代だったので色んな話をしましたね。「芸能人水泳大会には出てもらうから」って言ったら「いや泳げない」って言うから、「曲なんか作ってないで、プールへ行って泳ぎを練習しておいてくれよ」って(笑)。

−− それ、冗談ですよね?(笑)

須藤:冗談ですよ(笑)。彼は凄くよく笑う人だったんですね。ケラケラ笑うんので面白がってよく笑わせていたんです。彼はジャニーズ的な感じとは違う、硬派なイメージがあるんですけど、めちゃくちゃルックスが良いわけじゃないですか。この子なんかあるなと思いましたけど、正直言ってあの音楽なので、そんなに売れないだろうなとも思っていました。でも、こういう新しい感じの詩を書く人と自分が関われるのは嬉しかったですね。

−− もうそのときに彼の未来は想像できたんですか?

須藤:全然できなかったですけど「良い仕事はできる」と思いました。とにかく彼とはたくさん話をしました。「今、何を読んでいるの?」と話を振ると、彼は「今エーリヒ・フロムの『愛するということ』を読んでいます」と。「あ、それは俺も読んだよ」「え、読んでいるんですか、須藤さん」「俺も高校のときちょっと熱がある時期はそういうもの読んでいたからさ。全然面白くねぇだろ」「そうですね」みたいな(笑)。あとフロイトがどうこう言うから「もうちょっと普通の小説読めよ」ってサリンジャーとかいっぱい紹介したんですよ。哲学書とか読まなくていいから、普通の青春小説みたいなものをもっと読みなよって。後々分かったんですが、彼は人生の指南書みたいなものを買って紐解いていくというか、意味は分からないんだけど読んでみるみたいな感じで、小説や物語系のものをほとんど読んでいなかったんです。

あと彼も3つ上に優秀な兄貴がいる次男坊なんですよ。それで兄貴に対してコンプレックス持っていたり、そういうところは僕と似ていました。どのアーティストをやるときでもそうですが、何か共通点みたいなものを一生懸命探して、何か一つでもそういうものがないと、僕はプロデュースできないんです。偉そうに何かものを教えるというタイプでもないですしね。だから女性アーティストって橘いずみと白井貴子くらいしかやってないです。よく「尾崎豊を発掘して育成した」なんて言われますけど、スカウト能力とか発掘能力があるわけでもなく、育成はしたのかもしれないけど、そんな大層なことはしていないんです。