FOCUS

【前半】『ニッポンの編曲家』出版記念インタビュー
「熱い音楽をどうやって作っていくか」
川瀬泰雄×吉田格


『ニッポンの編曲家』出版記念インタビュー 川瀬泰雄×吉田格『ニッポンの編曲家』出版記念インタビュー 川瀬泰雄×吉田格
川瀬 泰雄(かわせ・やすお)写真左
吉田 格(よしだ・ただし)写真右

70〜80年代の活気に満ち溢れたレコーディング・スタジオで音と格闘を続けていた編曲家に焦点を絞り、たくさんの名楽曲を生んだ頭脳と、レコーディング時のエピソードに迫った書籍『ニッポンの編曲家』が話題だ。編曲家だけに留まらず制作ディレクターや、スタジオ・ミュージシャン、エンジニアの他、多方面から証言を収集した本書は、音楽業界人のみならず、業界を目指す若者やミュージシャン&エンジニアの卵、そして音楽ファンまで多くの人にとって興味深い内容になっている。Musicman-NETでは前後編に分け、著者インタビューを敢行。前編では川瀬泰雄さん・吉田格さんのインタビューをお送りする。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)
2016年6月28日 掲載
PROFILE
川瀬泰雄(かわせ・やすお)
1947年生まれ、神奈川県出身。大学を卒業後、東京音楽出版(ホリプロ)に入社。井上陽水、浜田省吾、山口百恵など、約40組の音楽プロデュースを担当。キティ・レコードに移籍後はH2O、岩城滉一など10数組、独立後は、松田聖子、岩崎宏美、裕木奈江などの音楽を制作。現在までに約1,600曲を手がけた。ビートルズ研究家としての顔も併せ持ち、『真実のビートルズ・サウンド』(学習研究社)、『プレイバック 制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡』(学研教育出版)の著書もある。現在、音楽プロデュースの他、ビートルズやパブ・ロックなど、複数のバンド活動も行っている。

吉田格(よしだ・ただし)
1953年生まれ、奈良県出身。76年にCBS・ソニーに入社。78年より邦楽ディレクターとなり、SHOGUN、原田知世、To Be Continued、知念里奈らを担当。南野陽子ではオリコン8作連続1位を記録。郷ひろみを「GOLDFINGER'99」で再ブレイクさせた他、2002年からはソニー・ミュージックダイレクトにて山口百恵のトリビュート・アルバムや、太田裕美、大貫妙子、尾崎亜美、五輪真弓らを手がけた。アラフォー・アイドル“Blooming Girls”(南野陽子、森口博子、西村知美)のプロジェクトも彼の手による。現在はSpring Tune Inc.にて作家マネージメントや音楽制作を中心に動き出している。



『ニッポンの編曲家 歌謡曲/ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち』『ニッポンの編曲家 歌謡曲/ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち』
著者:川瀬泰雄+吉田格+梶田昌史+田渕浩久
2016年3月発売
A5 / 336ページ / 並製
2,484円(税込)
DU BOOKS / 9784907583798 / JPN

Amazon
http://www.amazon.co.jp/dp/4907583796
DU BOOKS
http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK115


1.

—— 先日、発売された『ニッポンの編曲家』を読ませていただきまして、この業界の若い人たちにも、ぜひこの本を手に取ってもらいたい、こういう時代があったということを広くお伝えしたい、という想いから今回インタビューをさせていただくことになりました。まず、本を出すきっかけはなんだったんでしょうか?

川瀬:僕は2年半ほどラジオ日本で『川瀬泰雄のオトナジカン』という番組のパーソナリティをやっていたんですね。その番組で、昔、仲間だったミュージシャンやアレンジャー、作詞家・作曲家たち裏方をゲストで呼んでいたんですよ。アーティストも井上陽水さんが出演してから多くの方々が出てくれるようになりました。その番組の中で、しょっちゅう「当時のレコーディング現場は熱かったよね」という話になるんですよ。それで、ゲストの話をまとめた本を書こうかと思っていた矢先、(吉田)格さんがゲスト出演したときに、格さんもアレンジャーの本を出したいという考えを持っていたということがわかり、「じゃあ一緒にやろうよ」ということになりました。

—— 番組はいつ頃まで放送していたんですか?

川瀬:2014年の10月までです。

—— わりと最近まで放送していたんですね。

川瀬:全部で125回くらい放送したんですが、スポンサーがついてない番組だったので、自分で電話して、「出てくれない?」と出演交渉をして、ゲストの全員がノーギャラで出てくれたんです。ミュージシャン仲間だった柳田ヒロさん、そこからバズの東郷(昌和)さん、ガロの大野(真澄)さんも出たし、星勝さんも昔から仲間だったので呼んだんですよ。その星さんとの放送を井上陽水さんが聴いていて「面白かったから僕も出してよ」って言ってくれて(笑)。ディレクター仲間だった小栗(俊雄)さんとか、酒井(政利)さん、松崎(澄夫)さんにも出てもらいましたよ。最初は半年程度の予定だったのが、ゲストがすごいから、あと半年、あと半年とやっているうちに2年半続いちゃって。

—— 何分番組なんですか?

川瀬:30分ですね。だいたい2週にまたがっていました。陽水さんのときなんて4時間くらい喋りっぱなしだったから、2週分でも、すごく余っちゃって(笑)。

—— 途中、曲もかけたりするんですか?

川瀬:もちろんかけます。僕はビートルズ・マニアで、ビートルズのカバー・バージョンをたぶん6,000曲くらい持っているんですよ。ビートルズって公式にリリースした213曲全曲でカバーが出ていて、一度、ビートルズのリリース順にカバーだけでアルバムを作ったら、本当に超一流のアーティストばかりのものすごい作品が出来ちゃったんですよ。レイ・チャールズが出てきたり、セリーヌ・ディオンが出てきたりするわけですから。これを本当にリリースしたいな、と思って何カ所か回ったんですが全滅でした。というのも、そのあたりに関してはレコード会社には色々な協定があるんですよ。だったらラジオをリスナーが録音するのは勝手だから、全部録音すると面白いものが出来るよと必ず1曲かけていたんです。それは番組が始まってから終わるまでずっと持っていたテーマでしたね。あとはゲストに応じて2〜3曲とトーク。たぶん格さんが出演したときは南野陽子をかけたのかな。

吉田:そうですね。あと自分のお気に入りの1〜2曲とビートルズでしたね。

川瀬:そのときに、昔の話になると、みんなそれぞれ熱く語るわけですよ。今はパッケージのセールスが落ち込み気味になっちゃって面白くないな、みたいな話にもなって。それであの時代の熱を本という形にしたいなと思ったわけです。

—— 書籍として残したいと。

川瀬:今の若い人たちって引き出しが少ないな、と思ったんですよね。僕より20歳くらい若いミュージシャンと一緒に仕事をしたとき、20歳若いと言っても40代後半くらいになっちゃうんだけど、その人たちですら打ち込みがメインだから、1人にアレンジを任せると、シュっとまとまっちゃうんですよ。僕たちみたいなのが横にいて、アドバイスすると一気に広がったものができるんだけど、何回かそういうことがあって、ミュージシャンたちがバトルをしながら曲を作っていた時代を知らないまま育っちゃっているんだなって思ったんですよ。

—— 1人のイメージの中だけで曲を作っちゃう?

川瀬:ポール・マッカートニーも、ビートルズが解散してすぐに、1人で全楽器を演奏して、歌も入れて作ったら、やっぱり小さくまとまった作品ができたじゃないですか。別にあれはあれでいいんですが、ポールですら、そこに陥っちゃうんですよね。だから、いかにミュージシャン同士のバトルが大事なのか、そこに僕たちがオブザーバーみたいに入って、一つテーマを与えると、またそれでアイデアが生まれる。そうやってみんな同じところに向かってやってきたからこそ、良いものに仕上がっていったんだなと再認識したんです。

—— その時代の熱気をもう一度伝えたい?

川瀬:そうですね。何が大きく違うのかを伝えたいですね。ミュージシャン自体は変わりませんから。ただ、みんなが共通して言うのは予算の問題がそうさせてくれないんだというところですけどね。

吉田:予算の問題はかなり影響していると思いますよ。

—— 感覚としては当時使っていた予算と、今一曲に充てられている予算はどれくらいの差があるんでしょうか?

川瀬:ゼロひとつ違うかもわからないですね。5分の1から10分の1という。

吉田:僕がやっていた当時のシングルAB面で、大体350万から400万くらいの予算だったんですよ。でも今は10曲、12曲くらいのアルバムが400万くらいなので、もう極端に違いますよね。

—— 1曲あたり200万かけていた時代から、今は1曲40万ですか…。

川瀬:40万でも高いですけどね。山口百恵さんなんかが売れてきたとき、例えばシングルでオケを録るじゃないですか。その後、ちょっと歌を入れて「違うな」と思ったら、別アレンジでオケを録り直したりするわけですよ。そしたら、シングル1枚で600万、700万に平気でなっちゃうんですよね。そういうのが許された時代だったんですけど、今、その金額だったら完全にアルバムの値段です。

吉田:逆に言えば、コンピューターでいくらでもやり直しが利くっていうのもありますけどね。ミュージシャンが集まって、せーのでリズムを録って、そこにオーバーダブで弦が入ったりブラスが入ったりコーラスの人を呼んでみたいなことは今はまずないですから。

—— そんな贅沢している人はめったにいないですよね。

吉田:売れている方は当然、今でもやっているんでしょうけどね。

川瀬:バンドだったらミュージシャン代もかからないし、セッションで合わせて熱いものが作れるんだけど、普通のアイドルみたいな作品だと、作詞、作曲、アレンジ、全部他人にお任せになるじゃないですか。そういう人たちはそんなことやって作っていられないですからね。




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