『未来は音楽が連れてくる』〜日本が気づかないソーシャルミュージックの大席巻

連載第34回 なぜYouTubeは音楽を救えなかったのか


連載第34回 なぜYouTubeは音楽を救えなかったのか
▲Break of Reality。NYで活動する3チェロ+1パーカッションのインストだ。PandoraのMusic Genomeにリストされて以来、彼らのデジタル売上は4倍に跳ね上がったという
Image : Wikimedia Commons
YouTube : http://www.youtube.com/watch?v=F8CSCjiJjQo
証言 : http://thehill.com/blogs/congress-blog/technology/269837-why-i-support-the-internet-radio-fairness-act



Pandoraのミュージックグラフが描く、プロモーションの未来形

Break of Reality(ブレイク・オブ・リアリティ)。

NYで活動する3チェロ+1パーカッションのインスト・バンドの名だ。合衆国連邦議会に提出した証言集で、彼らはインディーズを代表してPandora陣営を支持した。理由は簡単だ。Pandoraがきっかけで売れるようになったからだ。CDアルバムの売上は3倍、デジタルアルバムの売上は4倍になったという。アメリカにおけるインディーズのシェアは3割だが、Pandoraでは7割を占めるサイレントマジョリティだ(連載第26回)。

彼らは、Facebookでを対象にアンケートを取った。Break of Realityにイイネをつけた7,500人が対象だ。結果は、これからのプロモーションを示唆しているように思う。

1位 Pandora等、ネットラジオで知った・・44%
2位 ライブで観て知った ・・・・・・・・31%
3位 Facebook等で、友だちから知った ・・15%
4位 YouTube等で知った ・・・・・・・・・9%

YouTubeの順位が低い理由は、日本の現状を振り返れば十分、想像がつくだろう。

YouTubeの登場時、「これからはマスメディアが無くても、新人がどんどん出てくる」と言われたが、この予想は外れた。無名バンドの場合、YouTubeに掲載しただけでは、何も起こらないからだ。YouTube単体では、Pandoraのように楽曲とリスナーのマッチングが発生しない。

2位のライブは「リアル」、3位の友だちは「ソーシャルグラフ」という名が最近、ついている。

いわゆるソーシャル・マーケティングだ。最先端のプロモーションとして脚光を浴びる一方、音楽ビジネスの現場では疑問符がつくこともある。放送にはかなわないからだ。

アメリカでは、いまでもラジオがネットより強い。現在、アメリカ人のメディア消費は、ラジオが2時間40分/日。インターネットが1時間53分/日だ(連載第24回)。音楽プロモーションの主戦場は依然としてラジオなのだ。ラジオでアデルを聴き、ウォルマートで山積みになった『21』をカートに入れる。これが今でも1/4を占める。

だが、無名のインディーズ・アルバムがオンエアされることはまずない。

編成部の机には、メジャーレーベルのプロモーターが持ってきたCDであふれている。ネットラジオは当初、地上波放送の同時送信がメインだった。つまり、プロモーションの流れに変化はなかった。

ここで登場したのがPandoraだ。Pandoraのシェアは現在、ネットラジオの74%、全ラジオの7%だ。

Pandoraのミュージックゲノム(楽曲レコメンデーション・エンジン)は、マス媒体のように実績を問わない。一曲一曲のDNAが解析され、リスナーひとりひとりの趣味が把握される。結果、その音楽をほんとうに求めている耳元へ、自動的に届くことになる。

そこは、宣伝費不要の世界だ。

本章の冒頭で「Pandoraはソーシャル・メディアではない何かだ」と書いた。人と人の相関関係(ソーシャルグラフ)を構築するのがソーシャル・メディアなら、Pandoraはそれではない(連載第22回)。趣味志向で人を結ぶのがインタレストグラフなら、Pandoraはそれでもない。

Pandoraが創りだしているのはミュージックグラフだ。

ウェスターグレンのミュージックゲノム・プロジェクトは、無数の楽曲に相関関係を与えて、ミュージックグラフを構築した。このミュージックグラフを放送に応用して、音楽と人を結びつけるミュージック・メディア。それがPandoraなのだ。

Pandoraが築いたミュージックグラフの王国では、楽曲のクォリティだけが評価される。


Pandoraが音楽ビジネスの構造を変える

音楽ビジネスのおいて、最大のコストは宣伝費だ。媒体費はスタジオ費用に増して金を喰う。

とくに新人のデビューには、ベテランのリリースよりも宣伝コストを要する。全くの無名を全国区にするには、全国規模の媒体露出が要るからだ。アメリカならメジャーデビューにあたり、今でも億単位の宣伝費が投入される。ハーフ・ミリオンが出なければリクープできない。業界のみなさんなら、国内でもデビューに億単位が投入されたアーティストを挙げることができるだろう。

近年、録音環境のデジタル化で、制作費は圧縮の傾向にある。音楽不況は、宣伝費の圧縮も強いている。だが、全国に認知させるにはそれなりの媒体費がかかる。広告単価が下げられないなら、宣伝するアーティストの数を減らすしかない。

その結果、新人のリリース数は激減した。世界のデビューアルバム売上は2003年から2010年にかけてマイナス77%という惨状だ。

連載第34回 なぜYouTubeは音楽を救えなかったのか
(出典 IFPI 2010 Report)

新人のリリースというのは、製造業における新製品の投入に当たる。研究開発費と宣伝費が発生する新製品は、製造業でも金食い虫だ。赤字対策で新製品をずっと出さなければどうなるか。結局、企業は撤退や売却のほかに道が無くなる。

今、レコード産業に起こっている深刻な問題はこれである。新人の売上が減れば、いずれ人口の推移と共に音楽文化は衰退するほかない。

ここに、Pandoraの章を世に問うている本当の理由がある。

近い将来、インターネット放送のシェアは30%を占め、その6割をPandoraが持っていくとウォールストリートは予測している。

Pandoraは、宣伝費不要で、無名のミュージシャンを宣伝してくれる。そんなプロモーション・メディアが2割を占めるようになったらどうなるか。

まずミュージシャンは、Break of Realityのように、創作活動とライブ活動に専念すればよいことになる。メジャーデビューを経ずとも、認知経路を確保することが出来るようになるからだ。


メジャーレーベル不要論が終わるとき

連載第34回 なぜYouTubeは音楽を救えなかったのか
▲Pandoraのようなパーソナライズド放送が2割以上を占めるようになれば、レコード会社の戦略は柔軟なものになる。リストラ、契約解除に頼らない組織変革も可能になるだろう

これはメジャーレーベルの存在意義を奪う危機だろうか? 答えはNOだ。

「Pandoraで一定の人気が出たミュージシャンから、投資対象を選べばよい」というのが理由の一つ目。もうひとつは、「巨額の宣伝費を突っ込むか、契約解除か」という二元論から解放される手立てを得るからだ。

覚えてらっしゃるだろうか?

ウェスターグレンがミュージックゲノムを着想したきっかけは、ある記事を読んだことだった。シンガー・ソングライターのエイミー・マンがレーベルから契約を打ち切られたのは、アルバム売上がハーフミリオンに届かなかったからだ(23万枚)、という記事だ。

もし当時、Pandoraがレーティングを20%持っていたなら、ハーフミリオンが絶望的になろうと、宣伝費を削って契約を更新する道もあっただろう。

パーソナライズド放送が十分な大きさを持つようになれば、マス放送と併用できるようになる。7%ではなく20%にだ。そうなると、宣伝費のサイズを自由にバランスできるようになる。

宣伝費が調節可能になると、メジャーアーティストにもメリットが出る。アーティスト印税を柔軟に交渉できる可能性が開けるようになるからだ。

音楽業界の外から見ると、アーティスト印税のパーセンテージは、メジャーレーベルによる搾取の象徴にも写りかねなかった。実際には相応の理由がある。1000万円単位で発生する制作費と宣伝費をリクープするまでは、レコード会社も赤字だからだ。

だが、パーソナライズド放送が2〜3割のシェアを持つようになれば、損益分岐点をもっと自由に動かすことができるようになる。レコード会社側もキツキツの売上計画を建てなくてよくなり、赤字リスクは減る。そうなれば、はやいうちからアーティスト印税を柔軟に設定することも可能になるだろう。

それは、レコード会社の組織を柔軟に作り直す道にも繋がってゆく。単純な人減らしではなく、予算と担当アーティストの編成を柔軟に割り振る道が拓けるからだ。

売上枚数五桁が当たり前となった日本では、大切な話ではないだろうか。世界的には、その売上枚数はインディーズだ。それをハーフミリオンが前提の組織形態・契約形態で裁こうとするから厳しい思いをしているのかもしれない。

インディーズとメジャーを両方抱え込む組織体には、Pandoraのような宣伝費不要の強力な放送メディアが、必須ではないだろうか。これは、ミュージック・ディスカヴァリー・サービス待望論である。


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