『未来は音楽が連れてくる』〜日本が気づかないソーシャルミュージックの大席巻

連載第15回 Spotifyアプリには、地球の音楽メディアの未来が宿っている


■Spotify音楽アプリのマネタイズ

イギリス上陸時、エックが「Spotifyで音楽産業のエコシステムを再構築する」という志を述べたことを書いた。

エックは、自分たちもその一員となった、Facebookに集ったソーシャルアプリの大群が、Facebook上に豊かなエコシステムを築き上げているのにインスパイアされたのだろう。Spotify音楽アプリのエコシステムをSpotify上に構築することで、Spotifyそのものを音楽のエコシステムにするという、壮大な構想を実行に移してきた。

Spotifyが独自のプラットフォームを発表した頃、Facebookのエコシステムからは、時価総額66億ドル(約5,145億円 77.96ドル/円2011.12.16)をつけて上場する企業があらわれた。ソーシャルゲームのZynga(ジンガ)社だ。ZyngaのビジネスモデルもSpotifyと同じフリーミアムモデルである。まず無料ゲームをフックにして、3億人近い月間アクティヴユーザーを集める。その上で広告売上と、アイテム課金・月額課金などの売上を建ててゆく、というやり方だ(※)。
(※ http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1112/19/news029.html )

さて、始まったばかりのSpotify音楽アプリには、エコシステムと呼ぶには致命的な欠陥があった。サードパーティがSpotifyを通して稼げる仕組みが用意されていなかったのだ。Spotifyの収益は、広告売上とサブスクリプション売上だが、これらがサードパーティに分配される仕組みは不可能だったためだ。

理由は、サードパーティのアプリが創出するコンテンツはあくまでプレイリストであって、じっさいにかかる音楽はサードパーティがかけるものではないことにある。結果、サードパーティはSpotifyの音声コンテンツに広告をつけることもできないし、音声コンテンツを無制限で聞かせるサブスクリプション売上を立てることも不可となる。まあ、当たり前といえば当たり前だ。

マネタイズの方法があるとすれば、たとえばローリングストーン誌のアプリ利用者が、Spotifyから記事を読みにローリングストーンのサイトにジャンプして、そこで間接的に広告売上や電子書籍売上を増やす事ができる、というぐらいだった。

「マネタイズにはチケット販売、物販の促進などをまず考えています」

とSpotifyアプリ・プラットフォームの発表時、Spotifyのコンテンツ部門最高責任者は答えているが、弱すぎると言わざるを得なかった(※1)。だが、これから紹介する、Spotify音楽アプリの『第二波』(※2)が到来すると状況は変化した。
(※1 http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204012004577070591571844050.html )
(※2 http://www.theverge.com/2012/4/18/2957081/spotify-apps-att-mcdonalds-intel-reebok-coca-cola )



■Spotifyのブランド・アプリ

第二波は、半年後に来た。公式ブログでSpotifyは、AT&T、リーボック、マクドナルド、そしてインテルのブランド名を冠した音楽アプリを発表した。

「実は『広告』って言葉、嫌いです」

NYで開催されたアド・エイジ社の広告会議にプレゼンターとして登壇したエックは、広告業界人相手にぶちかました(※)。エックは、広告という言葉をブランディングの世界から取り除きたいのです、という。これまでSpotifyを支えてきた音声広告やバナー広告にかわり、エックが企画したのは『ブランド・アプリ』とでも呼ぶべき存在だった。ブランドアプリ構想に込めた思想を、エックは次のように要約した。
(※ http://adage.com/article/digital/coca-cola-spotify-partner-global-deal/234173/ )

「これからの時代のブランド体験は、コンテンツですよ」

Spotifyの音楽アプリは、おもにプレイリストを生成することを用途としている。Spotifyを使えばわかるが、優れたプレイリストは、優れた音楽番組そのものだ。音楽番組がコンテンツならば、プレイリストを生成するSpotify音楽アプリもまた、コンテンツと呼びうる存在である。

秀逸なプレイリストを生成するSpotifyアプリに、ブランドの名前を冠せば、そのブランドアプリを通じて得られる音楽体験は、ブランド体験になりうる。エックのいいたいのは、そういうロジックなのだろう。

ともあれ抽象的な話はここまでにして、リリースされたふたつのブランドアプリを紹介していこう。


LISTENin Powered by MacDonald (リスニン。パワードバイ、マクドナルド)

LISTENin(リスニン)

マクドナルドのアイコンとテーマカラーを冠したアプリ、LISTENin(リスニン)をひらくと、まずFacebookのフレンドリストがスキャンされ、Spotifyを使っている友だちがリストアップされる。そこから、友だちがSpotifyで最近よく聴いている曲をセンスよく並べたプレイリストを生成してくれる。ソーシャルラジオの先駆者、Last. fmの『友だちラジオ』を髣髴させるアプリだ。ソーシャルグラフをうまく使った、プレイリストの自動生成アプリ、と評することもできる。

ジャケ写をタイル状に並べることでプレイリストを視覚化しており、さらにそのジャケットの曲が好きな友達の顔アイコンを、ジャケ写の下に小さくあしらっている。こうしてSpotify版の『友だちラジオ』は、直感的かつ親近感の持てるユーザー体験をもたらしている。

マックで、友だちと気軽に時間をすごしているブランド体験と重ね合わせることを狙って、Spotifyはこのソーシャルグラフ志向のアプリをマクドナルドに提案したのだろう。楽曲の並べ方も、ビルボードの総合チャート寄りに選曲されているようだ。番組として眺めても、マクドナルドの冠番組、あるいは店内BGMらしいカラーが出ている。


Sifter Presented by Intel(R) (シフター。プレゼンテドバイ、インテル(R))

Sifter

インテルのアイコンと、ブランドカラーの濃紺をまとったSifterも、プレイリストを自動生成するアプリだ。ジャケ写がタイル状に並ぶビジュアルは先述のLISTENinと同じく、CDの並んだ棚をイメージしたものだ。LISTENinと異なる点は、プレイリストの生成方法と、Facebookの使い方だ。

まず、プレイリストの自動生成は、Spotifyラジオで使われているEchoNestのレコメンデーション・エンジンを使っているので精緻な選曲がなされる。Spotifyラジオのシード・ソング機能(ある曲を種子にプレイリストを自動生成する機能)も備わっており、気にかかった曲のジャケ写をクリックすると、そのジャケ写が中心に移動し、新たなプレイリストが生成される、という仕組みだ。

中心の大きなジャケ写の下にあるFacebookボタンを押すと、Facebookの友だちリストをスキャンし、友だちがSpotifyで聴いたことのある曲があれば、その曲のジャケ写の下に、顔アイコンが表示される、という仕組みだ。

ソーシャルグラフに比重の強かったLISTENinアプリに比べ、EchoNestのテクノロジー色が色濃く出たアプリで、現代を代表するテクノロジー・ブランド、インテルの名を冠するにふさわしい設計思想になっている。

Spotify音楽アプリをいくつも手がけるデザインスタジオ、Brigade社がSifterのインターフェースを担当した(※)。
(※ http://thisisthebrigade.com/portfolio/ )


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