『未来は音楽が連れてくる』〜日本が気づかないソーシャルミュージックの大席巻

連載第10回 違法ダウンロードを減らし、CD4〜8枚分/人を年間で売上げるSpotify


■英レコード産業、Spotifyの活躍で売上回復へ

Ed Sheeran(エド・シーラン)
▲Ed Sheeran(エド・シーラン)。UKチャートが新たに始めた『ストリーミング・チャート』で1位となった。Spotify、Deezer、We7などフリーミアム音楽配信をベースとしたこのチャート、アデルがTOP10外になるなどエッジが効いている(※)
出典:Wikimedia Commons
(※ http://www.guardian.co.uk/media/2012/may/10/spotify-streaming-services-chart )


イギリスで本格サービスインする際、CDとのカニバリズムを恐れるレーベルの経営陣に対して、エックは次のように説得した。

「イギリス人はCDを年に一枚(希望小売価格12ポンド)しか買いません。フリーミアムに取り込めば年12ポンド以上支払ってくれますよ(※)」
(※ なお、IFPI2012によると、英レコード産業の売上は年間14.2ポンド/人 http://paidcontent.co.uk/article/419-interview-daniel-ek-ceo-spotify/ )

Spotifyの有料会員料は月10ポンド。年間で120ポンドとなり、実売価格(7.65ポンド)ならCDアルバム約16枚分の売上だ(※1)。「4人に1人」が有料会員なので、平均しても、年間で一人当たり4枚分のお金を払ってくれる。2009年当時のサブスクリプション売上は広告売上の1.5倍なので(※2)、金額的には、年間で一人あたりCDアルバム6.5枚分をSpotifyは売っていることになる。メディアパワーがついて広告売上がサブスクリプション売上と並ぶようになれば、一人あたり7.8枚だ。
(※1 2009年イギリスにおけるCDアルバムの平均額は7.65ポンド。これで120ポンドを割ると15.68枚になる。http://www.bpi.co.uk/press-area/news-amp3b-press-release/article/uk-digital-music-sales-pass-the-c2a31bn-milestone.aspx )
(※2 http://paidcontent.org/2012/08/28/chart-what-next-for-spotify-as-expansion-losses-mount/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook )


つまりレコード会社にとってSpotifyは、CDショップの4〜8倍、儲かる。

「乱暴な理屈だ」とおっしゃるかもしれない。が、BPI(英レコード協会)の統計も、この仮説が、少なくとも方向的には正しいことを証明しつつある。

2009年は、Spotifyの上陸に牽引されて、イギリスのソーシャル・ミュージック業界は大躍進だったが、レコード産業の方も絶好調だった。レディ・ガガのイギリス上陸、マイケル・ジャクソン追悼の特需、おばちゃん歌姫スーザン・ボイルの国民的ヒットなど話題も事欠かず、ビッグアーティストによるアリーナクラスの大型ツアーも複数あった。

そのおかげでイギリスの音楽産業の売上は、リーマンショック後の不景気に関わらず、2003年以来の久しぶりのプラスとなった。2003年から5年間で音楽産業の売上は30%も減ったが、2009年には1.4%増の92億8800万ポンド(約1兆3500億円 2010年4月26日145.35円/ポンド換算)となった。

コンテンツを生み出すレーベル側の好調。コンテンツを消費者に届けるソーシャルミュージック側の急成長。コンテンツプロバイダとコンテンツサプライヤー双方の好調は、上記のような数字に結晶した(※)。
(※ 英レコード産業協会BPI調べ http://www.guardian.co.uk/music/2010/apr/26/uk-recorded-music-sales-rise )

中でも、デジタル売上は996%増だった。第1章(本連載は第4章を初めに掲載しています)で紹介したように、iTunesに代表されるダウンロード売上の成長率は先進国では漸減し、頭打ちに向かっている。その一方で、SpotifyやPandora Radioのようなストリーミング型音楽サービスが生み出す広告売上とサブスクリプション売上(有料会員料)が、先進国におけるデジタル売上の急成長を現在、牽引している(※ IFPI 2012 pp.15ほか)。

なお、Pandora Radioのようなパーソナル放送や、Spotifyのようなフリーミアム音楽配信(※定額配信と異なる)のない国、たとえば日本では、デジタル売上の成長はは頭打ちとなっている(IFPI調べ)。

違法ダウンロードもイギリスでは、減った。

2007年の22%から、2009年には17%に減った。最も違法ダウンロードをする中高生(14歳から18歳)に限ると、2007年には42%もいたファイル共有常習者は、2009年初頭には26%に激減した。

2009年から2010年は、緩やかな減少にとどまり、違法ファイル共有の常習者は13%減(つまり前出の17%から14.8%)となった。
(※ http://arstechnica.com/media/news/2009/07/report-more-uk-users-going-the-legal-route-for-music.ars )

違法ダウンロードの利用率の減少が緩やかだったのは、新たな問題が発生したからだ。合法サービスのふりをした、違法な格安MP3ダウンロード・サイトが台頭してきたのである。結果、違法ダウンローダーのうち、「違法」と自覚していない層は44%に上昇している(※)。
(※ http://arstechnica.com/media/news/2010/12/bpi-12-billion-illegal-music-downloads-in-2010-a-record.ars )

違法ダウンロードを止めた動機も統計が取られている。

23%が「ストリーミング型の合法サービスを使うようになったから」と答え、29%の人が「アーティストに対しフェアでいたいから」と答えた一方、「逮捕が怖いから」と答えたのは12%に留まった。

読者のみなさんの予想通り、ムチでやめた人よりも、アメでやめた人の方が二倍以上、多い。これが人類という生き物の性質なのだ。Spotifyというアメと、パイレーツベイ裁判に代表される取締強化というムチ。エックたちがスウェーデンで確立した『アメとムチ』戦略はイギリスでも採用され、効果を出した、ということを表す数字と言える。

この2009年のイギリス音楽産業の好調は、違法ダウンロード罰則化、Spotify上陸、コンテンツのどれもが欠かせなかった。が、公平に見ると3番目のコンテンツ好調がいちばん大きかっただろう。だが3年後の2012年には、Spotifyの役割が決定的だったといえる統計が英レコード協会(BPI)から出ることになる。

その前にエックたちがイギリスで足場を固め、アメリカに進出してゆくまでを通しておこう。


特別連載企画『未来は音楽が連れてくる』榎本幹朗氏 NEWマーク画像【音楽業界関係者必見!】
日本の音楽産業は鎖国状態?
世界の最新音楽ビジネスモデルを分析した特別連載特集。

連載第69回 有望市場でなくなったライブと音楽配信。 天才ディズニーの事例が示す「次の大物」へのヒント〜スティーブ・ジョブズ(21) <7/19 更新!>

【後半】インターネットの恩恵を受けたアーティストKOHHとマネージメントの新たな挑戦
【特集】ミレニアル世代のアーティストが創る新たな音楽シーン【後半】インターネットの恩恵を受けたアーテ…

【特集】ミレニアル世代のアーティストが創る新たな音楽シーン
2015年に世界の音楽産業で史上初めてデジタルの売上がフィジカルを上回り、ライブ市場が急拡大するなど…

「ヒット」を再定義して音楽の未来を描く『ヒットの崩壊』著者 柴 那典氏インタビュー
音楽ジャーナリスト・柴那典氏による著書『ヒットの崩壊』が発売された。CD時代の終焉が迫り、オリコンラ…

独立系レーベルの楽曲をメジャーと同等の条件で世界に配信 デジタル・ライツ・エージェンシー「マーリン」インタビュー
世界中の独立系レーベルのデジタル権利を支援する団体マーリンの日本オフィスであるマーリンジャパン…

「歌詞を味わう」体験をアップデートする 〜歌詞が浮き出る革新的スピーカー『Lyric speaker』インタビュー
音楽と同期して歌詞が表示される次世代型スピーカー『Lyric speaker』が各所から注目を集めて…

「音楽オタク」としてファンの望む音楽映像を届け続ける WOWOW 取締役コンテンツ本部長 山下浩志郎氏インタビュー
開局当初よりビックアーティストからマニアックなアーティストまで、硬軟入り交じった番組プログラムで、音…

【後半】『ニッポンの編曲家』出版記念インタビュー スタジオ・ミュージシャンの生演奏の素晴らしさを伝えたい 梶田昌史
70〜80年代の活気に満ち溢れたレコーディング・スタジオで音と格闘を続けていた編曲家に焦点を絞り、た…

【前半】『ニッポンの編曲家』出版記念インタビュー「熱い音楽をどうやって作っていくか」川瀬泰雄×吉田格
70〜80年代の活気に満ち溢れたレコーディング・スタジオで音と格闘を続けていた編曲家に焦点を絞り、た…

日本人として世界で戦うハイブリット企業 ディグズ・グループ 代表取締役 工藤与明 × 音楽プロデューサー 今井大介 対談
STY(エス・ティ・ワイ)、HIROを筆頭に次世代クリエイターが数多く所属するクリエイティブ・チーム…

世界のトップ・アーティストが指名するマスタリング・エンジニア ー メトロポリス・スタジオのスチュアート・ホークスに会ってきた
過去25年間におよぶマスタリング・エンジニアとしての経験とノウハウを持って、無名の新人からトップ・ア…

【後半】新たな音楽&才能との出会いは一種の“麻薬”である
モダンフォークカルテット、ソロとアーティスト活動を通じて、60年代後半のアメリカを“実体験”した麻田…

過去最大規模の650社が出展「第4回 ライブ・エンターテイメント EXPO」「第4回 イベント総合 EXPO」今年の見所は 過去最大規模の650社が出展「第4回 ライブ・エンターテイメント EXPO」「第4回 イベント総合 EXPO」今年の見所は
イベントに関する演出機材やグッズ、各種サービスが一堂に集まる日本最大級の見本市「第4回 ライブ・エン…

1億人を超える楽天会員基盤を最大活用 〜 定額制音楽配信サービス「Rakuten Music」 1億人を超える楽天会員基盤を最大活用 〜 定額制音楽配信サービス「Rakuten Music」
楽天が2016年8月に提供を開始した定額制音楽配信サービス「Rakuten Music」。サービス開…

「More than a ticket」を標榜し世界へアプローチするPeatix 〜ピーティックスがチケット再販機能をリリース 「More than a ticket」を標榜し世界へアプローチするPeatix 〜ピーティックスがチケット再販機能をリリース
誰でも簡単にグループ・イベント管理、チケット販売・集客が行えるウェブサービス・モバイルアプリ「ピーテ…

利用者の約7割が「CD / DVDを購入するきっかけになる」と回答 パッケージの価値を高める「プレイパス」サービスが拡大 利用者の約7割が「CD / DVDを購入するきっかけになる」と回答 パッケージの価値を高める「プレイパス」サービスが拡大
CDやDVD/ Blu-ray Discに封入されているパスコードを入力することで、リッピングなしに…

インターネットテレビの視聴“体験”を“習慣”に変える AbemaTV 編成制作局長 藤井琢倫氏 インタビュー インターネットテレビの視聴“体験”を“習慣”に変える AbemaTV 編成制作局長 藤井琢倫氏 インタビュー
2016年4月に開局したインターネットテレビ局「AbemaTV」が11月に1,000万ダウンロードを…

日本初!ダンス・ミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」開催 日本初!ダンス・ミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」開催
ダンス・ミュージックに焦点をあてた日本初の国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MU…

【13th TIMM】BABYMETAL、スカパラ・・・日本人アーティスト海外公演の舞台裏を語る「キー・プレーヤー:ザ・ブッキング・エージェント」 【13th TIMM】BABYMETAL、スカパラ・・・日本人アーティスト海外公演の舞台裏を語る「キー・プレーヤー:ザ・ブッキング・エージェント」
10月24日〜26日にかけて開催された、日本音楽の海外進出を目的とした国際音楽マーケット「第13回東…

新しい時代を鳴らす楽器クリエイターを輩出したい オリジナル楽器のコンテスト「THE 楽器 DE SHOW!?」が開催 新しい時代を鳴らす楽器クリエイターを輩出したい オリジナル楽器のコンテスト「THE 楽器 DE SHOW!?」が開催
ソニーミュージックによるエンタテインメントの学びの祭典「SONIC ACADEMY FES 2016…

【チケット不正転売問題】「コンサート文化について考え直す岐路に立たされている」 — ACPC会長/ディスクガレージ代表取締役社長 中西健夫氏インタビュー 【チケット不正転売問題】「コンサート文化について考え直す岐路に立たされている」 — ACPC会長/ディスクガレージ代表取締役社長 中西健夫氏インタビュー
8月23日、日本音楽制作者連盟(以下、音制連)、日本音楽事業者協会(以下、音事協)、コンサートプロモ…

多彩なビジネスセミナーで海外進出の糸口をつかむ 「第13回 東京国際ミュージックマーケット(13th TIMM)」10月24日より開催 多彩なビジネスセミナーで海外進出の糸口をつかむ 「第13回 東京国際ミュージックマーケット(13th TIMM)」10月24日より開催
日本音楽の海外進出を目的とした「第13回 東京国際ミュージックマーケット(13th TIMM)」が1…

ニューミドルマン座談会「ナイトエンターテイメント」と「フェス」、注目シーンの最先端から見た、新時代音楽ビジネスの可能性 ニューミドルマン座談会「ナイトエンターテイメント」と「フェス」、注目シーンの最先端から見た、新時代音楽ビジネスの可能性
IT、デジタル化の波は、音楽、エンターテイメントにも訪れている。新しい時代に対応した人材を育成するこ…

バザール12020701【居抜スタジオ】 プロユーススタジオ機材を大放出中!
新商品【居抜スタジオ】が出品されました!NEWマーク画像